その父親にかぶせるようにハルキは言う。「深愛さんのこと、本気じゃないだろ」と。「
ストレスや性欲のはけ口に、あの人を利用するな」と続けたハルキに、夏生が見せた表情がすごかった。
座っている父親が立っている息子の方向にぐるりと向き直り、斜め下から見上げた目と薄ら笑いを浮かべながら、「
好きなの?」と言った顔が、あまりに下卑ていたのだ。
吉沢悠、すごすぎた。この表情ひとつで、彼の今置かれた心の状況が手に取るようにわかる。

この瞬間、夏生は夫でも社会人でもなく、「ただの男」だった。しかもひとりの女を巡って、年若い男に優越感を抱くなかなかのクズっぷりだ。ハルキは何も言い返せなかった。
深愛は夏生に誘われて出かけていくが、せっかく美容師の叔母(ヒコロヒー)にヘアメイクをしてもらったのに夏生は気づきもしない。あげく個室のある店が見つからずホテルに連れ込まれ、ヘアメイクは台無しになる。それでも宅配のカレーをうれしそうに食べる深愛がどこかせつない。
本当は夏生は深愛と距離を置きたいのだ。だが、そうはっきりとは言えない。夏生は純粋すぎる深愛を恐れていた。今までの軽い気持ちの不倫相手とは違う。深愛の前でただの小心者になる夏生もまた、彼の本性ではあるのだろう。