Entertainment

木梨憲武が自ら電話して共演オファーした62歳俳優。昭和の大スターを父に持つ“存在感”とは

続編まで製作された『最後から二番目の恋』

『最後から二番目の恋』DVD-BOX(ポニーキャニオン)

『最後から二番目の恋』DVD-BOX(ポニーキャニオン)

 日本一の二度見俳優どころか、日本を代表する名優に他ならない中井の演技をずっと見ていたい。いやそれだけじゃなく、中井貴一ならもうなんだっていい。ただひたすら眺めていたい。  さっきの会話(追想)場面がもし他の俳優だったら、すぐに飽きてしまって、たぶん見てらんない。なのになぜ、中井だと見ていられるのか。  小泉今日子とのこれまたつややかな共演ドラマ『最後から二番目の恋』(フジテレビ、2012年)でもそうだった。鎌倉を舞台に、中年男女のたわいもないやり取りが淡々と繰り返されるだけなのに、続編(2014年)まで製作されてしまった。  同作でも節々で名人芸的な二度見を披露しているのだが、あれもやっぱりキョンキョンの相手役が中井さんじゃなかったら、絶対に成立していない。目に見えないはずの空気をシグニチャーとして可視化する中井貴一。なんなんだ、ほんとあの唯一無二の空気感って。

長いキャリアを振り返ったとき

 ところで、中井の父は、昭和の大スター佐田啓二である。例えば、1962年公開の『秋刀魚の味』。とんかつ屋でビールを飲み、とんかつをひと口ぱくつくだけで惚れ惚れする二枚目俳優だった。同作の小津安二郎監督が、実は「貴一」の名付け親だったりもする。  佐田は37歳の若さで亡くなるが、亡き父や世界的な巨匠監督の縁が俳優の道へ向かないはずがなかった。ある意味では貴一と名付けられた瞬間に、俳優として生きることを決定づけられたんじゃないか。  市川崑監督による名作『ビルマの竪琴』(1985年)などの主演を経た中井は、1990年代、俊藤浩滋プロデュースの任侠映画に活路を見出す。東映任侠映画の黄金期はすでに遠い過去だったが、『激動の1750日』(1990年)から『残俠』(1999年)で同ジャンルをちょうど10年間再興し、盛り上げた功績は特筆すべきだろう。  WOWOWドラマ初主演作だった『きんぴか』(2016年)では、出所してきたやくざ役で、残俠の哀しみを滲ませた。任侠の世界で凄みを利かせる映画俳優としての中井。かたや、ドラマ俳優としては、どちらかというと物腰柔らかな雰囲気が印象的。  そんな長いキャリアを振り返ったとき、ふたつの系統を使い分けてきた名優だけが発揮する、唯一無二の存在感があるのかもしれない。
次のページ 
親友同士が呼応する感動
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ