40代で養子縁組して母に。TBS元人気アナが”子どもを手放した女性”との対話で涙した理由
“ある生みの母”との対話で強く思ったこと
――かつて特別養子縁組制度で赤ちゃんを託したという女性と会い対話をし、涙を流されていた場面もありました。あの時どのようなことが胸に去来されていたのでしょうか?
久保田:すごくいろいろなことを考えていて、まずどうしてこれほど子どもの幸せを考えている人が自分で育てられないんだろう、と。話を聞いていくとわかるのですが、それは必ずしもその女性の方に起因した問題ではありません。こんなに子どものことを思っているのに環境が許してくれない、つまり環境をどうにかしなきゃいけないと強く思いました。
社会に対してなぜ育てたいと思う人が諦めなくてはいけない状況に追いやられるのだろう、育てられないのだろうという思いが巡っていました。きっと娘の生みの親も娘のことを大切に思ってくれて、娘の幸せを思って私たちに委ねてくれたんだということは伝えていきたいなと改めて思いました。
――ところで映画の冒頭、子育てに励み始めた久保田さんが「ママごっこをしてるような虚構感」があると語る場面がありました。その気持ちは今現在は解消されましたか?
久保田:あのころは、すごい幸せなんだけど、これでいいのかな。ママって呼ばれていいのかなっていう。ずっと考えていましたね。でも、今はそんなふうに考えることがなくなりました。一番大きいのは、やっぱり娘がわたしのことを母親だと、ママだと認めてくれることがすごくよく分かるからだと思います。
3か月くらいのとき、本当に信じられない奇跡が起きたっていうくらい、毎日とっても楽しく、こんな幸せになることあるんだと思って過ごしてたんですけど、一方で、自分は産んでないじゃないかっていう思いを払拭できませんでした。
結局「産まなきゃ親になれない」っていう固定観念に悩まされていたんですよね。それまでも言葉では自由なほうがいい、多様性が大切だってずっと思っていたし、言っていたと思うのですが、実際自分がその呪縛から解き放たれるまでには、少し時間が必要でした。
制度によって幸せに暮らす家庭を可視化する大切さ
――やはり過ごす時間の長さが、そういう葛藤を減らしていくものでしょうか。
久保田:本当にそうだと思います。産むということはもちろん、とても尊いことです。そのことをわたしは経験できなかったけれど、毎日毎日一緒にいて、時間を過ごしていることで私たちの家族は強く結びついていると感じています。
まあ、こういうふうにお話しするとすごくいいママなんだろうと感じられてしまうかもしれません。でも実際は映画で描いてないですが、喧嘩もありますし、言い合いもしていますし、ついつい言い過ぎてしまうこともあります。決して現実は甘いものじゃないですし、子育てが大変なことはみなさんと同じです。とても聖人にはなれない、失敗ばかりを繰り返しているのですが、それも含めて、絆は強くなっているなって思いますね。
――特別養子縁組制度をとりまく日本の現状について、課題に感じていることはありますか?
久保田:一番重要なことは子どものための制度であるということですよね。制度によって親も幸せにしてもらっている。育ての親の側も生みの親の側もですが、一歩踏み出すきっかけになっているケースはあると思うんです。でもやっぱり子どものためのものなんだとうことを、より強調していきたいなと思います。子どもの幸せのためにわたしたち大人ができることがあって、この制度はそれをするひとつの手段になっているということを。
また、制度への理解を広めるためには、親子の血のつながりがなくても幸せに暮らしている家庭を可視化することが大切です。わたしたちのようなケースは決して珍しくはなく、この制度で幸せに暮らしている子どもはたくさんいるということを伝えていきたいです。
――最後になりますが、映画を見てくださる人にメッセージをお願いします。
久保田:特別養子縁組は年間の成立件数が600~700件くらいですから、決して多くないケースで、この映画は私たち家族という一例でしかありません。でも、そんなとても個人的こと、とことんプライベートな領域だからこそ、何かしら皆さんの生活にも重なる普遍的な部分も感じてもらえたらなと思います。
自分の家族やお友達、仕事場など、私たちは日々いろんな人たちと関わっています。その人たちとの関係性を少し意識して、いつもより少し丁寧に話をしてみよう、聞いてみようと思うきっかけになれたとしたらとても嬉しいです。
<取材・文/トキタタカシ 撮影/山川修一>
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