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NHK『虎に翼』が起こす不思議な現象とは?10年以上続く“ネット朝ドラ考察文化”の強さ|瀧波ユカリさん

虎に翼×瀧波ユカリ_後編

©NHK

「女性がそういうメンタリティを持って生きることは、現代であったとしても非常に稀有(けう)なことだと思います。でも現実的にはそこまで振り切っては生きられないからこそ、超人的なメンタリティを持つ寅子を視聴者は安心して見ていられる、ということもあるのかなと思います。 ウチでは中学生の娘も視聴していますが、この“どう思われるかをほとんど気にしないメンタリティを持つ女性主人公”は、彼女にとってすばらしいロールモデルになっていると思います」

名もなき女性たち

人からどう思われるかよりも、自分がどうしたいのかが大事。相手が家族でも、自分を疎(うと)ましく思っている同級生でも、目上の男性でも、寅子は率直にものを言う。 「それが創作物であったとしても、“どう思われるのかなんて気にしなくていい”という力強いメッセージを若い世代は特にまっすぐに受け取っているはずです。それこそが彼女たちの未来への可能性を広げていくと思います」
©NHK

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もうひとつ、瀧波さんのポストを紹介しよう。 〈聖橋((編集部注:お茶ノ水付近のほかの橋の可能性もあります))の上で、重い荷物を背負った老婦人(2回は出てきたはず)、思い詰めた様子で橋の下を見つめる女性……  「あれ?なんか気になるな」くらいの匙加減で、ふつうは「モブ」と呼ばれる存在の女性たち、女性ひとりひとりの人生が視界に入るように作られている。こんなドラマあっただろうか〉 ――2024年4月5日

女性の痛みを取りこぼさない

本ドラマはオープニングでも、女性がいくつもの役割を果たしながら老いていく様がアニメーションで描かれ、また主人公がさまざまな職業の女性たちと踊っている。こうした“名もなき”市井の女性の描き方について、瀧波さんが「虎に翼」の今後に期待することとは? 『虎に翼』© NHK「“モブ”の女性たちについても、オープニングで描かれる女性たちについても、ままならない人生を歩んできたであろう、名もなき女性たちのことをできるかぎり取りこぼさない、という作り手の強い意思を感じます。 物語って、どうしても主人公の成長やストーリー展開のために“名もなき人”を利用する……言葉を選ばず表現すると、捨て駒にする、消費するようなことが往々にしてあるのですが、このドラマではそういうことはしないだろうし、むしろ誰の痛みも取りこぼさないように進めてくれるだろうという期待があります」 はじまったばかりの「虎に翼」。寅子の前にはさまざまなものが待っている。婦人弁護士を認める法改正は先送りされたし、戦争もある。そして終戦後、男女は平等であって性別で差別されないと定める、日本国憲法が施行される。 それによって寅子と、それを取り巻く人と、名もなき市井の女性たちはどう変わっていくのか……楽しみにしながら見守りたい。 【瀧波ユカリ】漫画家。1980年札幌市生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、2004年に24歳のフリーター女子の日常を描いた4コマ漫画『臨死!!江古田ちゃん』でデビュー。同作はアニメ・ドラマ化。現在は『わたしたちは無痛恋愛がしたい』を連載中。モトカレマニア/ありがとうって言えたなら/あさはかな夢みし等、漫画とエッセイ、TVのコメンテーター等幅広い活動を展開。 <構成・文/三浦ゆえ>
三浦ゆえ
編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)、『リエゾン-こどものこころ診療所- 凸凹のためのおとなのこころがまえ』(三木崇弘著、講談社)、『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社)などの編集協力を担当。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。
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