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高橋一生の肉声はこの世の悲しみを隠さない。『岸辺露伴』との出会いで見せた真骨頂

5月16日に俳優の高橋一生と飯豊まりえが結婚を発表。 2人はNHKのドラマ『岸辺露伴は動かない』シリーズでの共演がきっかけです。交際がはじまったとされる1年前当時の高橋一生の俳優活動について再掲載します。(初公開日は2023年8月4日 記事は公開時の状況) ========== NODA・MAP『兎、波を走る』(作、演出:野田秀樹)が8月27日、福岡の博多座で千秋楽を迎える。6月17日に東京芸術劇場からはじまった長い旅の終わり、主要キャストのひとり高橋一生の俳優としての魅力について書いてみたい。千秋楽とはいえ、できるだけ具体的なことには触れないつもりである。
NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

アリスと、ある事実を溶け合わせ、物語は永遠に

『兎、波を走る』で高橋が演じた役は、脱兎。冒頭、高橋演じる脱兎が舞台の奥から強靭(きょうじん)な足腰の筋力を生かして出てくる。さりげないようで身体能力がないと難しい動きであった。 そして、詩の一節のような台詞を語る。舞台における第一声は重要。高橋は確かな声で台詞を届けた。脱兎とは、その後出てくる、競売にかけられている古い遊園地で催される予定の、“アリス”の物語をオマージュした演劇の登場人物の兎である。 元女優ヤネフスマヤ(秋山菜津子)は幼い頃、遊園地でママと見た、“アリス”の物語を再現したくて、第一の作家?(大倉孝二)に脚本を書かせるが、彼の描く不条理演劇を彼女は気に入らない。そうこうしているうちに、第一の作家?の書く物語に兎を追って消えたアリス(多部未華子)を探すアリスの母(松たか子)の妄想が混ざりはじめて……
NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

NODA・MAP第26回公演『兎、波を走る』(撮影:篠山紀信)

アリスは兎を追って不思議な世界に紛(まぎ)れ込むところまでは誰もが知る“アリス”の物語だが、そこから先はどんどん違う世界線に入っていく。ヤネフスマヤは第二の作家?(野田秀樹)にも依頼。さらに、第三の作家(山崎一)も現れて、物語は迷走するばかり。そのなかで脱兎の存在はとても重要である。彼がアリスを連れていった世界とその目的を、アリスの母の執念が突き止める――。 野田秀樹は初日に「他者の人生を預かっている作品なので、今回はことさらに、ちゃんと届けなくてはという思いが強くありました」(公式サイトより)とコメントしている。ある事実を、アリスの物語と溶け合わせ、あらゆる世代の人たちが受け止められる物語が生まれた。 時間と共に消えてしまうかもしれない、でも忘れさられてはいけない出来事を、物語にすることで永遠に。高橋一生は、その重大な責務を任された俳優のひとりであり、それを見事にやり遂げたといえるのではないか。これは公演の前半に見た筆者の印象である。

高橋一生の声の魅力。ざっくりイケメン枠に入り切らない要因にも

高橋一生の魅力のひとつは声である。野田秀樹の舞台に出る俳優には、野田を筆頭に、澄んで高く、ピンと張った声の人が多い。松たか子も多部未華子もそうである。そのなかで、高橋は少し違って、やや低く、太い。半音下がっているように感じる。
イケボだとも言われているが、2018年の『ルーヴル美術館展 肖像芸術一人は人をどう表現してきたか』の記者発表会では、「眠くなる声」「こもりがち」と言われると発言している。ただ、意識して話せば、そんなことなく、落ち着いた低音で、それが浮ついてなくて地に足がついていていい。 一時期、ざっくりと演技派イケメン俳優枠にカテゴライズされかかっていたこともあった高橋だが、そこに入り切らない要因はその声にもあったと感じる。 イケメンにカテゴライズされる俳優の声はたいてい明るく高いか、ウィスパーで、耳障りがいいのだ。高橋の場合、やや童顔な感じの見た目に、意外と低い声で、アンバランスな感じが、逆にバランスがいい。
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高橋一生の肉声は、この世の悲しみを隠さない
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