本書を読むと、前述した固定観念がばかばかしくなってきます。人生においての羞恥とは、過激で赤裸々な性行為ではなく、自分に嘘をつき続けて生きること、あるいは嘘をついたまま死ぬことかもしれません。

一般的に、閉経後の女性は濡れにくくなる、挿入時に痛みを生じる、など性行為がスムーズにいかなくなる傾向があります。
しかし男性と異なり、体の構造上は生涯“現役”OKです。ホルモン補充療法やゼリーを用いれば、十分にクリアできます。そのせいか、70代、80代の女性が、かなりの年下男性と付き合う例も後を絶たないのでしょう。
亡くなった夫の戦友と月2回ほど睦(むつ)み合う92歳の女性、旦那さんの介護をしながらふたりのボーイフレンドと逢瀬を重ねる68歳の女性。
悩み相談という名の自慢なのか、マウント合戦なのか、工藤さんでなくとも、一読者としても頭を抱えてしまいます。ただ、本書に登場する女性達はみんな、自分に与えられた命を精一杯輝かせようと、懸命に生きているのです。
この世に存在する「私」を見つめるためには、合わせ鏡になる誰かが必要になってきます。男性を愛するというよりは、自己愛のために男性を利用している、当人が意識しているのか無意識なのか、“女”という底力を感じます。そんなしたたかさも、私には美しく映りました。
子育て、結婚、家族。さまざまなしがらみから解放され、自由な時間を手に入れた女性達。熟れた翼を広げて飛び立つ姿は、私達に生きる気力を揺り起こしてくれるのです。
<文/森美樹>
森美樹
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『
主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『
母親病』(新潮社)、『
神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。
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