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『ホットスポット』で気付かされた、バカリズム脚本の“本当の凄み”。会話劇や伏線回収、だけじゃない

「細かすぎる・小さすぎる伏線の回収」が妙にクセになる

そして8割方が他愛もない内容に思える会話劇なのに、毎話きちんと伏線が回収されていることも話題です。 例えば第4話。高橋さんが「頭脳系の能力は使いたくない」と言えば、宿泊客の忘れ物を届けたり、電動自転車で逃走するコンビニ強盗犯にカラーボールを命中させたりと、やたら「肉体系の能力」を酷使する展開に。また「自力でガンプラ造りが得意」と言えば、最後はカラーボールで汚れてしまった電動自転車を「塗装し直す」ことに。このように見事な伏線回収が毎話楽しめます。 しかし、筆者が特にバカリズム作品らしさを感じるのは少し違うところ。何気ない会話のなかに「伏線」というには弱すぎるボールが散りばめられており、それらをも細かく拾っている点です
例えば第2話の冒頭で、清美ははっち・みなぷーと「40歳を過ぎると記憶力が落ちる」と駄弁っています。アラフォーの筆者は「分かる分かる! そんな会話ばっかりしてる!」と共感して観ていました。すると、その後も「記憶力が落ちる」ネタが随所に、本当に細かく、登場します。みなぷーが高橋さんに「記憶力が落ちているから治して」と相談したり、清美が娘に頼まれた買い物を忘れたり、スーパーの買い物で家の冷蔵庫の“在庫状況”を正しく思い出せなかったり。 会話から浮き彫りになるそれぞれのキャラや日常が、話をまたいでもきちんと地続きで描かれているのです。そんな細かすぎる小さすぎる伏線回収が妙にクセになってしまい、リピート視聴してしまう人も多いのではないでしょうか。

交差する「本音と建前」のリアリティに共感しかない

最後に触れたいのが、登場人物たちの人物造形のリアリティについて。宇宙人・高橋さんの設定はともかく、ほとんどのキャラクターが「どこにでもいそう」「職場にいそう」「友人にいそう」な“普通の人”です。その一人ひとりの凄まじいほどのリアルさが、会話劇の下地になっている……これこそが、バカリズム脚本の真骨頂! そしてキャラ設定はもちろんですが、リアリティを感じさせる仕掛けは、会話の合間に挟まれている“本音”にあると筆者は考えます。例えば第4話で高橋さんと夜勤をしていた清美は、何度か彼にイラッとする。しかし“建前”の会話ではもちろん伝えません。あくまで心の声で「○○する彼にイラッとした」と語るのです。このような本音と建前の分かりやすい対比表現が秀逸で、キャラクターのリアリティを引き上げています。
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