
イベントの様子
すでに完売している分のトイこころは2025年2〜3月の発送となるため、まだ購入者からの声は坂野さんのもとに届いていませんが、イベントなどで子どもたちに遊んでもらう機会はこれまでに何度もあったそう。
子どもたちはトイこころを受け取ると、大人に教えられなくても、自発的に遊びかたを見出してくれるといいます。
「本体から伸びている2つの電極パッドには、それぞれ体のどの部分に貼ればよいかイラストで示されているのですが、子どもたちは何も説明されなくてもそれを見てぬいぐるみの正しい場所にパッドを装着し、ショックボタンを押したり、心臓マッサージをしたりして遊んでくれます。
本体に『AED』と入れることで、無意識のうちに子どもたちにAEDを認識してもらうことを狙っています。文字を読めない子どもでも、繰り返し目にすることで印象に残りますし、おもちゃで見た記憶を思い出して、街中で宝探しのように『AED見つけた!』と興味を持ってもらえたら嬉しいですね。
イベントではたくさんのお子さんが来てくれるので、なかなか一人ひとりに遊び方を教えてあげることができないのですが、まったく問題なく楽しんでくれますね。蘇生中に注射器のおもちゃでぬいぐるみに注射をしている子もいれば、電気ショックボタンを押すと振動するのが楽しすぎて音声を聞かずに連打している子もいます。本来の救命ではありえない場面ではあるのですが、AEDを知ってもらうきっかけとしては、楽しく遊んでもらえているだけで十分だと考えています」
坂野さんに「トイこころ」を送っていただき、筆者の7歳の子どもに遊ばせてみました。イラストで使い方が説明されているのを見てぬいぐるみにパッドを貼ると、「ピッピッピッ」という音に合わせて懸命に心臓マッサージ。

ぬいぐるみに心臓マッサージをする息子(筆者撮影)
意外にも、AEDショックを与えるボタンより、トイこころの指令に合わせて心臓マッサージを繰り返すことにハマっていました。
ミッション完了後は、ぬいぐるみを抱きしめて「よかったね」と感無量の様子でした(笑)。

坂野さんは、多くの人が幼児期から日常の中でAEDに触れ、“大人になったら気づいたらAEDを使えるようになっていた”というサイクルを作ることを目指しています。
「最初は3〜5歳くらいで『トイこころ』で遊んでもらって、6〜12歳ではより精密なペーパークラフトで『AEDってどんな仕組みなんだろう』と学んでもらう。その後、中学生や高校生に取り組んでもらえるような試みもどんどん作っていきたいと思っています」
今後は再販を目指しながら、「幼稚園・保育園への寄贈を同時に進めていきたい」という坂野さん。現在は、全国で50程の園へ寄贈が決まっています。
「日本中の幼稚園、保育園や、個人のお宅のおもちゃ箱の中に『トイこころ』が入っているというくらいに広げていきたいと思っています。SNSで親御さんたちから『うちの子どもにも遊ばせたい』という声をたくさんもらえるようになったので、今後も発信を続けながら、AEDを知っている人が今よりももっと増えている未来を作っていきたいですね」
<取材・文/都田ミツコ>
都田ミツコ
ライター、編集者。1982年生まれ。編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。主に子育て、教育、女性のキャリア、などをテーマに企業や専門家、著名人インタビューを行う。「日経xwoman」「女子SPA!」「東洋経済オンライン」などで執筆。