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NHK『あんぱん』“スター歌手“の演技力に注目。しゃべり倒しても嫌な感じがしないワケ

エキストラにしては存在の主張が激しい

 画面奥にカウンター席がある。常連客らしい学生服の男性が一人座っている。エキストラにしては存在感があるというか、自分が「ここにいるぞ!」といった存在の主張が激しいその背中。画面手前で意気投合する嵩と大根の会話内容が入ってこないくらい、背中の男性が気になる。  その男性は何となく二人の会話に聞き耳を立てているような気もする。すると大根が「絶対に芝居の世界に飛び込もうと思ったんだ」と言った途端、背中の男性が明らかに右耳をカメラ側に向ける。やっぱり会話を聞いていた。当然エキストラでもなかった。  嵩が「なるほど」と相槌を打つと、乾いた音の効果音が鳴り、聞き耳を立てる男性にカメラが寄る。新キャラ登場であることを視聴者に早くも気付かせた、この男性がさらに踏み込んでどう振り向くのか。  嵩と大根の会話に全面的に共感して、興奮気味にドンと軽快にカウンター席に左手をついて立ち上がり、カメラ側に顔を見せる。「あ、大森元貴だぁ!」と誰もが指を差して喜ぶような初登場の瞬間があざやか。

朝ドラ初出演でスター歌手のケレンミがあふれる

NHK『あんぱん』©︎NHK 大森が演じるのは、音楽や演劇など、とにかく芸術を熱く愛する青年作曲家・いせたくや。嵩と大根の会話に割り込んで、芸術愛をぺちゃくちゃとしゃべり倒す。嫌な感じが全然しないのは、大森がこの不思議と人懐こい闖入者キャラを好感度たっぷりに演じているからだ。  彼がしゃべるだけで楽しげな雰囲気がある。明るいキャラクター性は例えば、第65回日本レコード大賞を受賞した「ケセラセラ」などミセスの代表曲が体現する幸せ色が源泉になっているのかもしれない。  実際、大森が演じるいせたくや役は作曲家という設定だけではなく、実際の画面上でも音楽的なキャラクター性を発揮する。朝ドラ初出演であるからには、主戦場とするミュージカルなスキルを披露しない手はない。 『あんぱん』公式Instagram上にアップライトピアノ前の大森が演奏するオフショットが投稿(8月5日)されるや、大森ファンのコメントでわいた。 「本当に演奏してたんだ」といったコメントがあるように、第92回でのど自慢に出場しようとするのぶの妹・メイコ(原菜乃華)の練習にいせたくやが付き合う場面がある。メイコが歌うのは戦後の代表曲「東京ブギウギ」。たくやが幸せ色で伴奏する。  第94回でカウンター席で嵩と並んで座る場面では「音楽でたくさんの人を幸せにしたい」とたくやは言う。陽気で洗練され、脱力した大森元貴というスター歌手のケレンミがあふれる演技を見て、「ケセラセラ」(スペイン語で「なるようになるさ」を意味)と思わず明るく口ずさみたくなった。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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