
連続テレビ小説『ばけばけ』©︎NHK
では、吉沢演じる錦織友一の初登場場面を見てみよう。銀二郎が住んでいるらしい下宿にたどり着いたトキは、女将さんに案内され、二階に上がる。上がってすぐの部屋が銀二郎の住まいだと聞いて、廊下をいったり来たりしながらサッと中をのぞく。
壁際の座卓に向かっている男性の姿が見えた(吉沢の初登場の瞬間を演出する画面のカット割が凝っている)。銀二郎がいると思ったトキは部屋の前に座る。
第2週第9回のお見合い場面では襖の前で緊張していたトキだったが、同様に少し強ばって中に呼びかける。でも返事がない。しつこく呼びかける。すると襖を開けた男性(友一)が「うるさい!」と言ってピシャッと閉める。
トキは負けじと呼びかける。友一も応戦して開け閉めを繰り返す。何とか部屋に入れてもらい、安心したトキは眠り込んでしまう。起きると窓辺に同居人の帝大生が二人いた。友一の姿は見当たらない。
でも彼がさっきまで向かっていた壁際の座卓辺りに、不在であるはずの友一の陰影豊かな存在感を感じるのが不思議だ。
本作の吉沢が「圧倒的存在感」だとするなら、それは不在だろうと何だろうと常にそこ(壁際)気配を感じるためだろうか。不在から在宅になると、もちろん存在感は強まる。そして友一は必ず壁際に座る。
壁際に座る吉沢亮。名付けて、“壁際のお亮さん”。第18回、友一は自分の試験の前祝いとして後輩たちに酒を振る舞う。自分は水を飲み、慎ましい存在感をここでも壁際で印象付けている。宅飲みというのもいい。
トキと銀二郎が再会して、朝になる。トキが朝ごはんを作る。友一は、トキと銀二郎の夫婦水入らずの雰囲気に気を遣って、窓際で存在感を消していた。
トキが「すんません、いらしたんですね」と言うと、友一が「いたよ、ずーっと」と壁を向いたまま言う。壁際で声が若干反響している。妙な存在感だ……。“壁際のお亮さん”もトキが大好きな怪談に登場する妖怪か何かなのだろうか?
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修
俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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