スー：スピリチュアルに対して私は、「すごい体験だ！」と言う人と「そんなわけあるか！」という人と、常に「ボケ」と「ツッコミ」の両方がいないとダメだと思っているんですけど、しばらくボケのいない時代もありましたよね。そこをどう乗り切ったんですか？ 角：私はやっぱり体裁を気にするというか、カッコ悪く見られたくないという思いがずっとあって。だから実はものすごく信じているけれど、それをあまり表には出さないように気をつけていました。モロに出してしまうと、おそらく友人も離れてしまうという気もしていたので。 スー：何らかのヤバさはあるっていうことは分かっていたということですか？ 角：そうですね。私の周囲にはスピリチュアルにハマっている人がたくさんいるんですけど、その人たちの特徴として、ちょっとしたシグナルとか、例えば車のゾロ目が見えただけで「やっぱり私の周りにはゾロ目が多い」みたいな。 スー：うん、それは違うよ（笑）。 角：そんなふうにはなりたくないって、彼らを見ていて思ってしまうところはあります。信じ込んでいる人たちの姿をあまりカッコいいと思ったことがないっていうのがあって。俯瞰している自分の方がカッコいいじゃないですか（笑） スー：ははは。冷静な気がしているだけ、というか（笑） 角：実は冷静じゃなかったんですけど、冷静っぽさは装っていましたね。 スー：だからといって、自分が認識できないものや、目に見えないものはこの世に存在しないという考え方はとても不遜だとも思っていて。だって地球が平らなのか丸いのかわからなかった時代があったぐらいだから、現時点で「バカじゃないの？」「信じられない」なんて言っていることが、後々本当に存在するものとして証明されることが十分あり得る。 だから、非科学的なものを完全にないものとして唾棄するのはやめようという、ある種のリベラルとしての矜持みたいなものもある……というのが、私のスピリチュアルに対するスタンスです。それを使って他者を支配しない限り、という条件付きですが。 角：私はオカルトやスピリチュアルを仕事にしてしまっているわけですが、スタンスで言えば「仲介役」を担いたいなと。たまに「角さんもこっち側に来ませんか」みたいなことを言われるんですけど、そこは断っちゃうんですよ。 大多数のマジョリティと違う世界が日常的に見えちゃったら、すごくバカにされたりするのはいうのは分かっていますから。ただやっぱり、スピリチュアルにハマっている人たちの“カッコ悪さ”を、そうではないものに変えていきたいというのはありますね。 スー：でも実際、心が弱っている人や考える力が弱い人たちに「お金さえ出せば解決する」というアプローチをしているスピリチュアルな商売がある限り、その人たちがカモになっているのを見た人は、救済を装った支配行為を軽蔑すると思うので、分けないといけないですよね。 角：そうですね。ただ、そういう心気持ちになってしまう人を生むのも社会の責任なので、スピリチュアルにハマる人たちをないがしろにはしてほしくないです。 スー：例えば、なぜ自分ばかりがこんな目に遭うのだろうという時に、すべて自分のせいだと思うと精神的にキツくなるけど、「12年に1回の天中殺だから仕方ないわ」と考える姿勢は便利でいいなと思うんですよ。そういうツールとして、あくまで主体性を手放さずに占いなどのスピリチュアルとうまく付き合っていけたらいいなと思っています。私にとってはエンターテイメントかなあ。 角：そうですね。我々は別に普段から何か特別なものが見えてもいないし、ましてや能力もないわけだから、そこにすがる必要はありませんよね。 【ジェーン・スー】 コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ『ジェーン・スー　生活は踊る』を始めTBSポッドキャスト『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』、『となりの雑談』のパーソナリティーも務める。『へこたれてなんかいられない』（中央公論新社）、『介護未満の父に起きたこと』（新潮社）、『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』（光文社）など著書多数 【角由紀子】 上智大学中退後、白夜書房、BABジャパンでの編集経験を経て、株式会社サイゾーにて不思議系ウェブサイト「TOCANA」を開設。8年間編集長を務める。ウェブ編集の傍ら、映画の配給、企画、プロデュースなども兼任。テレビ番組「ネットで噂のヤバイニュース超真相」や「ケンドーコバヤシの絶対見ない方がいいテレビ」を企画・出演し、Amazonプライムやネットフリックスで配信。映画『三茶のポルターガイスト』『新・三茶のポルターガイスト』の制作・出演も ＜文・取材／和場まさみ　撮影／スギゾー　ヘアメイク／藤原リカ（ジェーン・スー）＞