「高学年の子が『だったら、ジャンプするとゲームオーバーのやつだよ』と真っ直ぐに見つめると、騒いでいた子の表情が一変したんですよ」
騒いでいた子は目を真ん丸にして「え、なにそれ?」と食いついてきたそう。
高学年男子は、あくまで真顔のまま「急に止まったらドーンってなって、はい終了。しかもコンティニューなし」と説明を続けます。

※画像はイメージです
バスはいつ揺れるか分かりません。立ったりジャンプしたりしていれば、バランスを崩して転倒、怪我をしてしまう……つまりゲームオーバー。子どもにも分かりやすい形で、「危ない行動」を自然に伝えているように聞こえました。
「すると周囲から、フフッと小さな笑いが漏れたんですよね」
空気が少し和らぎます。説教ではなく、あくまで遊びの延長のようなやり取り。それが、場の緊張を和らげていきました。
「騒いでいた男の子が『えー?』と考えこんでしまうと、その様子を見た高学年男子が少しだけ口元をゆるめて『でもちゃんと座ってたら、ぜったい最後までクリアできるよ』と、彼を見つめながら伝えたんですよ」
ちゃんと座っていれば安全に目的地まで行ける。それをゲームクリアという形で伝えることで、行動のゴールを分かりやすく伝えたのです。
「すると騒いでいた子は、少し迷ったあとゆっくりと座席に座り直し『じゃあ座る』と大人しくなったんですよね」
あれほどはしゃいでいたのが嘘のように、静かに座り直すと、高学年の男の子は「それに、その方がかっこいいしね」と軽くうなずいたそう。
そして彼は、何事もなかったかのように自分の席へ戻っていきました。
「私は思わずその背中を目で追ってしまいました。怒るでもなく、押さえつけるでもなく、でもちゃんと騒ぐ子を静かにさせ着席させた凄技に、なんだか胸を打たれてしまったんですよね」
車内には、どこかほっとした空気が流れていたそう。
後ろの方からは「説明うまいなぁ……」「大人より大人だね」そんな声が聞こえてきて笑顔が広がり、佳苗さんもつい大きく頷いてしまいました。
「見ず知らずの男の子に、頭ごなしに叱るのではなく、相手の世界に寄り添いながら伝えることの重要性を教わりました。そして、その方がより相手の心に響くし、周りも笑顔になれるということも」と微笑む佳苗さんなのでした。
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<文・イラスト/鈴木詩子>