News
Lifestyle

本物のようにリアル 爪の縦線や指紋、シワまで再現して「失われた身体の一部」を作り続ける44歳職人の切実な舞台裏

「客先で本来のパフォーマンスが出せない」と依頼

平岡さんの作業場

平岡さんの作業場

 平岡さんのもとには、様々な相談が舞い込みます。営業職に励むある男性は、片手を失っていたことで「どれほど仕事へ一生懸命になっても、客先へ行くと手元を見て『大丈夫?』と言われてしまう。そこにばかり相手の意識が向くので、本来のパフォーマンスを出せずに困っているんです」と、切実に訴えてきたといいます。  また、装飾義肢の相談には、季節による波もあるそう。6月のブライダルシーズン、人と会う機会が増える年末年始には、問い合わせが増えると平岡さんはいいます。 「みなさん『早く準備しなければ』と思っていても、日々の生活が忙しくてギリギリまで動けないんです。結婚式を控える新婦の方が、『ウエディングドレス姿がきれいに見える腕を作ってほしい』と相談してくださったこともあります」  乳がんで乳房を切除したお客さんからは、友だちと温泉へ行くために「乳首を作ってほしい」という相談も。本人だけではなく、何らかの理由で家族や友人が身体の一部を失ってしまい「本人がふさぎ込んでいるので、助けてあげてほしい」という声もあるそうです。

家族と本人の思いがすれ違うケースも

指紋

よく見ると指紋までも再現されている

 そして、ときには家族と本人の思いがすれ違うこともあります。先天的に指のなかった子どものために「装飾義肢を作ってほしい」という親御さんからの相談を受けた当時を、平岡さんは振り返ります。 「小学生の子でした。お母さんは『どうしても作りたい』と言っていたんです。でも、いざ型取りをしようとしたら、その子がすごく不満そうで。どうしたのと聞いたら、泣きながら『僕はいらない』と僕だけにこっそり訴えてきました」  本人は「友だちと上手に過ごしているし、恥ずかしいと思ったこともない」と打ち明けてきたといいます。平岡さんは、親御さんに対して「本人は楽しくやっているようですし、必要になったまた来てください」と送り出しました。 「お母さんはきっと、我が子のためにと思っていたんでしょう。ただ、本人はお母さんに心配をかけたくない。どちらも優しさだったはずですし、愛情の行き違いだったのかなと思いました」

装飾義肢として一つの道をきわめたい

製作事例 日常で使う装飾義肢は、消耗品でもある。平岡さんのもとには数年越しのリピーターも訪れ、なかには「年齢を重ねたので、義肢のしわを増やしてほしい」といった依頼もあるそうです。  義肢装具士は、身体の一部を補う義肢だけを扱う仕事ではなく、失った機能を補う「装具」も扱う仕事。装飾義肢を得意とする平岡さんは「すべてを高いレベルで作れるわけではありません」といいます。 「同業の方を手伝う機会はあって、装具を扱うときもあります。ただ、脊柱が曲がってしまう側弯症のお子さんの成長に合わせて、何百例も装具を作り続けて上手な人がいたり、同じ義肢装具士であっても専門分野はさまざま。僕が今から追求しても敵わないし、装飾義肢をきわめて、誰かの役に立ち続けられるのであればと思います」 平岡さん 心温まる感謝の手紙が届く日もあり、今の仕事は「楽しい」と胸を張る平岡さん。  会社の工房では、ときに夜明けまで徹夜して装飾義肢の作業に没頭するときも。それでもつらいと思ったことはなく「色を重ねていく作業も、形を整えるために装飾義肢を掘っていく作業も、ルンルン気分でやっています」と笑う平岡さんは、今日もまた「もっときれいな装飾義肢を作れるように」と秘めながら、作業台に向かっています。 <取材・文・撮影/カネコシュウヘイ>
1
2
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ