
繊細で不器用で、やさしいツカサ。控えめながら誠実に、ツカサはナツに寄り添います。ナツもまた、ツカサの醸し出す人肌のような空気感に、次第に心をひらいていきます。
人生に迷走していること、やりたいこともなく、続けてきた仕事を辞める勇気もない……。母親や夫に言えば、甘えや我儘ともとられそうなナツの真剣な思いを、ツカサは受け止めてくれました。
〈ナツさんも好きなことが見つかるといいですね〉
夢に向かって進んでいるツカサに励まされて、ナツは本気で、何かやりたいことを探しはじめます。悩んだ末に、転職の話を夫に持ちかけるも、当然のように夫は全否定。「考えが浅い」と嫌味を言われますが、ナツはあきらめません。以前のナツなら、黙って夫に従ったでしょう。
ツカサだけが背中を押してくれた、この喜びが、ナツの人生の光になりました。自分を肯定してくれる人がひとりでもいると、人は強くなれるのです。
似た者同士のナツとツカサ。立場も年齢も違うふたりですが、行き着く先はひとつだと、お互いが予測しています。とはいえナツは既婚者。ナツがどう自分の気持ちと人生に折り合いをつけるのか、あなた自身の目で確かめてほしいです。
きっかけさえあれば、人はいつでも変われる。本書が伝えるメッセージに、心が熱くなりました。
<文/森美樹>
森美樹
小説家、タロット占い師。第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『
主婦病』(新潮社)、『私の裸』、『
母親病』(新潮社)、『
神様たち』(光文社)、『わたしのいけない世界』(祥伝社)を上梓。東京タワーにてタロット占い鑑定を行っている。
X:@morimikixxx