
そんな若者たちの間で、いま静かに広がりを見せているSNSがあります。韓国発の「Setlog(セットログ)」というアプリをご存じでしょうか。
私も実際にダウンロードして使ってみたのですが、仕組みはとてもシンプルです。
仲の良い友人同士だけでつながり、1時間ごとに2秒ほどの短い動画を撮影すると、一日の終わりに一本の動画として自動でまとめられます。
Instagramのようにフォロワー数を競ったりすることもなく、多くの人に見てもらうことを目的にしたSNSとは対照的です。
社内のインターン生にも利用者がいて見せてもらったのですが、映っているのは朝起きたばかりの部屋や、電車の窓から見える景色、家でのんびり過ごす時間など、本当に何気ない日常ばかり。加工や編集もできず、「映える」投稿をつくる必要はありません。
あくまで気心の知れた数人だけで、その日あった出来事をゆるやかに共有する。離れていても、同じ一日を一緒に過ごしているような感覚を楽しむための場所なのです。
かつてSNSは、世界中の人とつながり、自分を発信するための外へ向かうためのツールでした。しかし、今の新しい世代はあえてつながりを狭めて、自分の観客は自分で決めてしまう。
自分たちのリアルな心地よさを守る方向にSNSの形も変化してきているのだなということを感じました。
不特定多数に向けて自分を発信することに価値を感じる人がいる一方で、これ以上情報や比較に疲れたくないと考える人は、心を許せる数人だけの「シェルター」のような場所を選ぶ。
SNSの役割そのものが、「自己表現の舞台」から「安心して過ごせるデジタルの居場所」へと移り変わっていることを示しているのかもしれません。
旅行会社で働く私としては、もっと外へ、もっと旅へ、海外へ出かけてほしいという思いは変わりません。一方で、若者たちが「外へ広がること」よりも、まずは「安心できる内側」を求める気持ちにも、どこか共感する自分がいます。
たまには「映え」を休んで、気心の知れた人と、何でもない2秒の日常を共有する。そんな時間が心地よいと感じる感覚も、とても理解できます。
SNSはこれまで、自分を表現し、多くの人とつながるためのツールとして発展してきました。しかし今は、その使い方も多様になったのだなと感じています。
そして、それは旅も同じなのかもしれません。誰かに見せるための旅や観光地を巡る旅だけではなく、自分の心を整えたり、大切な人とのかけがえのない思い出を作る旅。旅に求める価値観も、また多様化しています。
もちろん、旅に出ない時間を大切にするという選択も、その人らしい過ごし方の一つ。大切なのは、その時の自分に合った距離感で、旅やSNSと向き合うことなのかもしれません。
SNSも旅も、正解は一つではありません。自分にとって心地よい距離感や、自分らしい楽しみ方を選べることが、これからはますます大切になっていくのかもしれません。
そして、心に少し余裕ができたなら、いつもの自分の殻を少しだけ破って、新しい景色に会いに行く。そんな小さな一歩を踏み出してみると、思いがけない出会いや、新しい自分との出会いにつながるかもしれません。
<文/大木優紀>
大木優紀
1980年生まれ。2003年にテレビ朝日に入社し、アナウンサーとして報道情報、スポーツ、バラエティーと幅広く担当。21年末に退社し、令和トラベルに転職。旅行アプリ『
NEWT(ニュート)』のPRに奮闘中。2児の母