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桑田佳祐の新曲「君への手紙」。もう独創性なんていらない60歳の境地

新しさやオリジナリティを超えた、還暦のしぶとさ

THE ROOTS~偉大なる歌謡曲に感謝

11月30日には『THE ROOTS~偉大なる歌謡曲に感謝』も発売に。桑田のルーツに迫る歌謡曲のカヴァー集 ※画像をクリックすると、Amazonのページへジャンプします。

 さて、以上を踏まえたうえで改めて指摘したいのは、「君への手紙」が新しさやオリジナリティとは無縁だという点でしょう。  と言うと悪いように思うかもしれませんが、そうではありません。「ゴジラ」のテーマ曲で知られる作曲家の伊福部昭が著書『音楽入門』の中で、作曲よりも編曲を評価したフランダース楽派(※)の時代について、こう書いていたのです。 ※フランドル楽派とも呼ばれる。15世紀中頃から16世紀にかけて活動し、バロック音楽の基礎を築いたとされる作曲家集団 <現代の私たちは、芸術の評価にあっては、多少品質を犠牲にしても、いわゆる独創的な作品の方を遥かに高く買いますが、今日にあっても、音楽技術および音楽的手法の考案の能力からいえば、独自な独創的な作品をまとめるよりも、他人によってつくられた主題をまとめていくのにより多くの音楽上の技巧的な能力の必要であることは、容易に理解できるのです。> (伊福部昭『音楽入門』全音楽譜出版社 pp.91-92、太字は引用者による)  これこそ「君への手紙」で桑田佳祐がしたことであり、「他人によってつくられた主題」にあたる部分が、“若かりしころの自分(桑田佳祐)による名曲”であるところが、実に興味深いのですね。  そういえば還暦とは、干支が一巡し生まれた年のものに戻ることだといいます。そんな折に過去の自分を客観的に組み立て直すような楽曲を発表した桑田佳祐は、やはりしぶといソングライターなのだと感じた次第です。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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君への手紙 (通常盤)

あの「ヨシ子さん」に続く楽曲は、切ないアコースティック・ロッカ・バラード!内村光良原作・脚本・監督映画『金メダル男』主題歌として書き下ろされた「君への手紙」を収録したシングル。秋から冬の足音が聞こえてくる季節ゆえ、胸に染み入る歌詞とメロディが、風のようにより一層の切ない味わいを心に運んでくる。 (C)RS

THE ROOTS ~偉大なる歌謡曲に感謝~

桑田佳祐が自身のルーツである日本歌謡の中から“東京”を題材にした楽曲を披露した音楽番組を新たな編集を加えてBD化。古き良き過去の名曲18曲と、ビッグバンドによってリアレンジされた自身の楽曲「東京」、新曲「悪戯されて」の全20曲を収録。

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