●連載「ファッション誌が答えてくれない相談」25 by小林直子●
Q.10万円の靴1足と1万円の靴10足、どちらがお勧めですか?
思い切って高い靴を1足買うのと、流行や気分に合わせて安い靴を10足買うのでは結局、どちらが賢い買い物ですか?
この質問に答えるためには、まず服、靴、バッグの値段とは何を意味するのか考えなければなりません。
普通に考えて、モノはその原価で価格が決定されます。主なものは原材料と人件費でしょうか。例えば靴なら、最高級のイタリア製カーフ素材を使い、イタリアの工場でイタリア人の職人が製造したのなら、原価は高くなるでしょう。
そうであるとしたら、すべての服、靴、バッグの値段は、原価に利益率を掛ければいいので、いちいちその靴は2万2517円とか、そっちは3万1498円みたいになるはずですが、そうはなっていません。なぜでしょうか?

服、靴、バッグの値段は、単純な原価に利益率を掛けたもので決まっているわけではありません。また利益率も、会社やモノによって変わってきます。
実はアパレル業界において、ファストファッションのA社が売っていたコーデュロイのパンツと、割と高級なブランドB社が売っていたコーデュロイのパンツの、生地が同じだったということがあります。
アパレルメーカーが仕入れた生地やボタンなどが他社のブランドと同じ、ということがよくあります。原価はほぼ一緒にもかかわらず、売値が10倍ほど違うこともあり得ます。
そんな不可思議なことが起こるのがアパレル業界というところです。
ちなみに私もアパレル会社にいたので、商品の値段のつけ方については知っています。
驚いたことに、私がいた会社のマーチャンダイザーは、原価計算した上で、そのあとは
「何となくそんな気分」で定価を決めていました。「大体ジャケットならこれぐらいの値段でしょう? 女の人はそれぐらい出すよ」と言っていました。そんな誰かの「気分」で定価は決められたりもします(もちろん全部がそうではありません)。
さて、服、靴、バッグは販売されてから半年もたつと、セールとして売り出されます。大体半額までいくのが普通です。
それで利益が出るのか? と言われれば、利益は出ます。え、じゃあ、その値引きされた半額って何なの? と聞かれたら、
半年新しかったよ、という鮮度の価格です。それだけです。

1年半たったら、在庫に税金もかかってくるので、8割引きぐらいまでには平気でなります。とにかく在庫として持っていたくはないので、売れる限りは値引きして売るというのがアパレル業界のやり方です。
また、インポートの靴は為替の変動によっても値段が上下します。円高になれば、インポートは安くなりますし、円安になれば高くなります。