●連載「ファッション誌が答えてくれない相談」29 by小林直子●
おしゃれになりたいなら、古い映画を見たほうがいいとよくアドバイスされるのですが、何をどう見ればいいのかわかりません。なぜ往年の名女優のファッションはお手本にされるのですか?
例えばオードリー・ヘップバーンやキャサリン・ヘップバーン、またはカトリーヌ・ドヌーブやアヌーク・エメやジェーン・バーキンなどの、とくに映画でのファッションは今でもよくお手本にされます。それはなぜでしょうか。理由は2つあります。

オードリー・ヘプバーン『ティファニーで朝食を』
1つは、その当時、つまり1950年代、60年代、70年代の状況です。
戦後、女性に参政権が付与されるなど、女性の権利と自由の拡大とともに、婦人服はスタイル、バラエティを増やし、飛躍的に発展しました。それまでもシャネルが女性をコルセットから解放し、男性服を取り入れるなどしてきましたが、それがより一般に広がるのは戦後になってからです。その同じ時期に作られた映画には、現在の婦人服のデザインの源泉を数多く見ることができます。

キャサリン・ヘプバーン『旅情』
また当時の映画は、
『去年マリエンバートで』はシャネル、『昼顔』はサン=ローラン、『ティファニーで朝食を』はジバンシィのように、コレクションを発表するようなデザイナーが担当したものが多くあります。それだけではなく『ローマの休日』や『裏窓』などの衣装で有名なアカデミー衣装デザイン賞を8回受賞した
イーディス・ヘッドなど、今以上に優れたデザイナーたちが映画の衣装を担当した時代でした。

カトリーヌ・ドヌーブ『昼顔』
流行は繰り返されます。現在、コレクションを発表するようなデザイナーたちのなかには、こういった過去のデザインを参考にするところから自分たちのデザインを作り上げるデザイナーが数多くいます。彼らは古い映画やファッション誌を見直し、古着屋で1950年代から70年代の古着を買い占め、次のコレクションのイメージの土台をつくります。

ジーン・セバーグ『勝手にしやがれ』
しかしその古いスタイルをそのまま同じようにつくるのではなく、そのスタイルに新たな解釈を加えて、新しいコレクションとして発表します。デザインというものは、何もないところからいきなりふっとわき出てくるようなたぐいのものではなく、こういった過去にすでに存在していたものや写真、絵画などからインスピレーションを得て、そこから再構築するものなのです。
そのときにそのデザインの最もピュアなかたちを、しかも動いている姿のまま、どこにいても見ることができるのが1950年代から70年代の古い映画であり、そこに出てくる女優たちです。