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女性の発達障害と「性被害」をめぐる深刻な実情を、専門家に聞く

 発達障害のひとつ、「アスペルガー症候群」。大人になってから診断されることもあり、女性特有の兆候があるといいます。  前回はガールズトークが苦手、というアスペルガー症候群の特徴を取り上げました。今回は女性のアスペルガー症候群にとって、決して避けては通れない「性の問題」です。 女性の脚「女性の場合、社会性の育ちにくさに早く対処し始めないと、異性との付き合い方で大きな失敗を経験してしまう可能性があります」  そう、指摘するのは小児精神神経科医の宮尾益知医師です。

相手の状況が読めず、ストーカーみたいに…

 恋愛は誰にとっても難しいことですが、特に人との関わりやコミュニケーションが苦手で、こだわりがある「アスペルガー症候群」の恋愛は悩みのタネです。  20代のDさんにとっては恋愛が人間関係の中でも特に複雑で難しいものでした。 メール「いつまでも執着してしまうのです。うまくいかないと腹が立って、怒りのメールを書きまくって。相手から文句がくるけれど、自分が悪いと思っていないからつらいんです。  自分は彼に尽くせると思っていても、彼はもっと私にふさわしい人がいると言います。それに『ストーカーをしないでくれ』と怒られたのです」(Dさん)  Dさんの場合にも「アスペルガー症候群」のこだわりがあり、相手の表情やたとえ話を理解すること、相手や状況に合わせた行動が苦手なため、関係をうまく築くことが難しいのです。この彼は、彼女に「ふさわしい人がいる」と言ってやんわり断っているにもかかわらず、それが、わからずにしつこくしてしまったようです。

「何もしないから」を言葉どおり受け取ってホテルへ

 会話ができて、勉強や生活習慣もこなせているように見えるアスペルガー症候群の女性。多少、人間関係で苦しんでいるとしても、ある程度の年齢になったら基本的には本人に任せてよいと周りは考えがちです。  特に恋愛や体のケアなど「性」に関することは、プライベートなことなので本人任せになってしまいます。しかし、彼女たちにとっては、一番理解しにくいことなのです。
宮尾先生

宮尾先生。 国立成育医療研究センターこころの診療部医長経て 2014年どんぐり発達クリニックを開院

「18歳のある女性の例です。彼女が中学の同窓会に出た際に、昔好きだった男性が声かけてきました。『もう疲れたから一緒に帰ろう』と言われたのです。  そこで『何もしないから』と言われてホテルに2人で入ってしまい、レイプされてしまった。その女性は全くそれを予測しなかったわけですよ。彼が『何もしない』と言ったのを、言葉通りに受け取ったのです。  その事件がきっかけで、彼女は精神が非常に不安定になり、現在は統合失調症になってしまったのです」(宮尾医師)  このように女性は全くそんなつもりはなかったのですが、相手の言葉を字義通りにとってしまい、男性が誘った意味や、体を触られても相手の意図がつかめず、されるがままになり、レイプされてしまったという深刻なケースも見られます。

「ついていくほうが悪い」わけじゃない

 また、初対面の人に誘われ、ただの親切だと思ってついて行って、性的関係を迫られることもあります。 ホテル「真夏に18歳の女の子が汗だくになって街を歩いていて、男性から『汗かいて大変だよね』と声をかけられたのです。その男性に『シャワーを浴びたほうがいいんじゃない?』と言われて2人でホテルに入ってしまい、その意味を理解できないままに関係を持ってしまった――ということもあるのです」(宮尾医師)  定型発達(発達障害でない)の女性からみれば、ついていく方が悪いと思うかもしれませんが、事態は深刻なのです。アスペルガー症候群の女性は思春期を迎えたら、社会的に男性が女性をどのように見ているのか教えてもらわなければわからないといいます。
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ただ仲良くするのと性行為との区別がつけられない
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