「もう1人は10代前半の女の子ですが、アスペルガー症候群で
ガールズトークなどができなくて、女友達ができなかったのです。
ご家族もご存知で、近所にいた定型発達のハーフの男の子が遊んでくれて、家に来たりしていたそうです。そのうち彼女は妊娠してしまったんですね。そして中絶手術をした。
私は、手術をした2週間後に診察したのですが、その前の診察時と全然変わっていないんです。そういったつらい体験があれば、普通は気持ちが落ち込んだり悩んだりするんですが、全くそういう感じの影がありませんでした。
彼女にとっては、そういう気持ちが理解できないのです」(宮尾医師)

アスペルガー症候群の女性の中には、下記の女性のように
セックスの意味を理解できていないケースが多く見られます。
「好きな男友達に性交渉をお願いしましたが、断られました。私は感覚過敏でスキンシップがなかなか難しいのですが、そのとき少し躁(そう)状態になっていて、『
就職する前に男性と性交渉をしなければ』と思い込んでいたのです」(20代Eさん)
男友達との交流の一環がセックスだと考え、会話や食事をすることと、ほとんど同じように気軽に関係を持っている人がいるのです。
「他にも、セックスの意味はわかっていても、
男性が体を求めてくる気配がわからず、望まないセックスを繰り返している人もいます。
アスペルガー症候群は社会生活の中で失敗することが多く、自尊心が低下しやすいのです。そのような自尊心が低下している時に、褒めてくれる男性がいると頼りにしてしまい、相手から求められれば体の関係を持ってしまうこともあります」(宮尾医師)

不用意な関係、不本意な関係になって苦しまないように、セックスの意味を理解し、ただ仲良くすることとセックスとをきっちりと分けて考える必要がある――そう、宮尾医師は注意喚起をしています。
アスペルガー症候群の女性は、自分の特性を知った上で、恋愛感情や体の関係を考えず、まずは友達として男性と交流を続けてみる。そして、アスペルガー症候群の特性を理解してくれる人が出てきたら、恋愛の対象として考えてみることが、傷つかない一つの方法だと言えます。
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知られざる「女性の発達障害」 vol.4―
<TEXT/ジャーナリスト・草薙厚子>