「anone」はドラマ脚本家・坂元裕二の集大成。あのセリフが意味するものとは
【「anone」のセリフを読み解く 第7~最終話】
「anone」が3月21日に最終回を迎えた。放送終了後、脚本の坂元裕二がInstagramで連ドラはしばらく書かないことを報告していたが、はからずも本作は、ここ数年の坂元ドラマの集大成のような余韻を残して幕を閉じたと思う。
偽札が繋いだ数奇な縁によって、共同生活を送ることになったハリカ(広瀬すず)、亜乃音(田中裕子)、舵(阿部サダヲ)、るい子(小林聡美)の4人。彼らは赤の他人同士だが、やがて擬似家族として連帯し、大切な帰る居場所を形成していく。
彼らの共通点は、世間の設定する「普通」や「幸せ」からはじき出された、ある種の生きづらさを抱えた人たちであるということだ。7話には、「多数決で多数派になったこと一度もありません」というるい子のセリフがあるが、これと似たセリフが、同じ坂元脚本による’16年のドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」にも出てきた。
都会の世知辛さに傷つきながらも純真さを失わずに生きる杉原音(有村架純)が、「私、たぶん多数決があったら毎回ダメなほうです」と語るのだ。それに対して、彼女の想い人である曽田練(高良健吾)は、「ダメなほうはダメなほうで、そこで一緒にいればいいじゃないですか」「多数決が何回あっても、俺は杉原さんのところにいます」と慎ましく愛を告白する。
こうした虐げられた者同士の連帯を、恋愛でも家族でもない共同体として描いたのが、’17年の「カルテット」だ。この作品では、それぞれ欠陥を抱えた主要登場人物4人を穴の空いたドーナツにたとえ、別府司(松田龍平)が「僕はみなさんの、ちゃんとしてないところが好きなんです。たとえ世界中から責められたとしても、僕は全力でみなさんを甘やかしますから」と肯定するシーンがあった。
本作「anone」は明らかにその延長線上にある作品だが、ひとつ違うのは、暖かく優しい疑似家族的な4人のコミュニティに、中世古理市(瑛太)という“5人目の不穏分子”が投入されたことだろう。