坂元裕二は目に見えない“想像力”の力を信じる|ドラマ「anone」第5~6話レビュー
【「anone」のセリフを読み解く 第5~6話】
第3話で、知り合って間もない他人であるハリカ(広瀬すず)を救うために、一千万円の身代金を用意した亜乃音(田中裕子)。その一千万円を、でき損ないの偽札とすり替えて、持ち逃げしたるい子(小林聡美)。しかし、第4話ではそれもまた誰かに盗まれてしまう。
舵(阿部サダヲ)とるい子は、一千万円は必ず働いて返すと言うが、行き場のない2人は、ハリカと同様、亜乃音の家にお世話になることに。最初は取り合わなかった亜乃音が、舵の作った焼うどんに紅しょうがを乗せるシーンが印象的だ。
第2話でハリカと亜乃音がほおばるジャムトーストしかり、第4話で亜乃音が血の繋がらない娘・玲(江口のりこ)に渡せなかったイチゴと、無理やり持たせた赤い傘しかり、このドラマにおいて赤いものは“血の繋がり”の代わりに連帯を示すアイテムだ。つまり、亜乃音が4人の焼うどんに紅しょうがを配っていく行為は、彼らを擬似家族として受け入れたことの象徴と言えるだろう。
さらに、突然訪ねてきた花房(火野正平)に怪しまれないよう、るい子たちは亜乃音の妹家族のフリを演じるが、そのことが4人に“失われた/叶わなかった家族”を再現させ、かえって絆を強める役割を果たしたことは見逃せない。やはり、演技という“ニセモノ”によって、彼らは肯定され、居場所を与えられるのだ。
こうした、なりすましがすれ違いを生むコメディ的な展開は、普通ならそれだけでドラマを成立させることもできるはずだが、第5話ではあくまでそこをダイジェストのように、ハリカのナレーションでさらっと処理してしまう。なぜならこの場面は、病床にいる彦星(清水尋也)が聞く、ハリカからの伝聞として語られる“物語”だからだ。
彦星「君は今ごろ何してるかなって想像するだけで、まるで自分が体験してるような気持ちになれるんです。(中略)君の冒険は、僕の心の冒険です」
視聴者は、そんな彦星の立場を追体験することになる。第2話で、亜乃音は「人は、手に入ったものじゃなくて、手に入らなかったものでできてるんだもんね」と悲観的に語ったが、それは必ずしも悲しいこととは限らない。病気で外に出られず、明日を信じることのできない彦星にとって、ハリカが語る日常のささいな冒険譚は、手に入らない物語だが、生を明日へ繋ぐ楽しみにもなっている。