NHK朝ドラで“老けメイク”の27歳俳優。いきなり50代前半を演じても「これこれ」と思わせる魅力とは
北村匠海がそこにいる。それだけで、そこには表現がある。何ともいえない表情なのに、何だか味がある。
今田美桜主演の朝ドラ『あんぱん』(NHK総合・毎週月~土あさ8時~ほか)で、今田演じる主人公・朝田のぶの夫・柳井嵩を演じている。第1週第1回から老けメイクを施した初登場場面が、話題である。
男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、本作で実年齢を越えた魅力を打ち出す北村匠海を解説する。
朝ドラ『あんぱん』は、北村匠海の後ろ姿から始まる。第1週第1回、冒頭ワンショット目。画面上を飛び回るアニメーションのアンパンマンが前景上手に、後景下手寄りで作者・やなせたかしをモデルとする柳井嵩(北村匠海)が作業している。
徹夜で漫画を描いていることが、この丸い後ろ姿から伝わる。カメラポジションが変わる。筆を走らせる嵩の横顔を捉える。部屋の外はすでに朝だが、カーテンは閉めきられている。後ろ姿と横顔だけが映るこの薄暗い室内での缶詰感が強調される。
そこへ本作の主人公で、嵩の妻である朝田のぶ(今田美桜)が、すたすたやってきて、カーテンを開ける。朝日が入り、嵩の顔を照らす。彼の顔正面がやっと映る。のぶの「おはよう」に対して、やや眩しそうだが朗らかにやわらかい「おはよう」を返す。
口をイの字にして視線を手元に戻す。このさわやかなイの字の顔を見て、あぁこれこそ北村匠海らしい特徴的な表情だなと感じる。
嬉しさ、照れくささ、安心感など、ポジティブな感情がいくつも織り込まれたような表情。実に曖昧でいて奥深い。北村がアウトプットする心模様の表現力である。
何とも言えないが、何だか心地よい表情とも言える。第1回放送前に『もうすぐ連続テレビ小説「あんぱん」』が3月20日に放送されたが、2024年9月のクランクイン映像の北村もいい。ローポジションのメイキングカメラが、野原に佇む嵩役の北村を捉える。
煽りの位置。引きの画。そこに何ともいえない表情の北村がいる。これだけでそこには表現というものがある気がする。これが本編映像でもまったく問題ないくらいである。
特徴的なイの字の顔
北村匠海の心地よい表現力

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