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坂元裕二は目に見えない“想像力”の力を信じる|ドラマ「anone」第5~6話レビュー

忘れものをしても、もっと面白いものが見つかる

 本作のこうした優しい姿勢は、続く第6話でも存分に発揮される。  この回は、玲の息子・陽人(守永伊吹)にフォーカスがあてられる。学校で変な質問ばかりしてしまうという陽人は、協調性がない子としてクラスメイトや教師からも無視されていることをほのめかす。 陽人「そしたらね、先生に僕の声聞こえなくなった。そしたらね、みんなにも聞こえなくなった。しゃべってもみんなに聞こえないからさ、学校怖くなっちゃったんだよね」  目に見えないもの、声を奪われたもの、このドラマは一貫して世の中から“いないこと”にされたものの姿を描く。劇中で明言することは慎重に避けられているが、おそらく陽人は何らかの発達障害を持った子だろう。だが、それがADHDなのかASDなのかといった診断名を特定することには意味がない。定型発達と発達障害の違いがグラデーションにすぎないように、“こちら側”と“あちら側”は常に地続きで繋がっているというのが、このドラマのスタンスだからだ。  それなのに、世の中は「みんなと同じ」にできない人を排除しようとする。利き手の左手で描いた絵のほうが圧倒的に上手いにもかかわらず、陽人は「ダメなほうの手」だからと右手を使おうとする。「誰かにそうしなさいって言われたの?」と問われると、一瞬考えて「……みんな?」と答えるのがそら恐ろしい。規範から外れた人たちを“いないこと”にするのは、特定の誰かではなく、「みんな」という不特定の同調圧力なのだ。  だが、ここでも亜乃音の言葉は優しい。第4話で、忘れ物を探している陽人が「すぐ落としちゃうダメ人間」「普通は落とさない」と自分を卑下すると、彼女はすかさずこうフォローするのだ。 亜乃音「だったらおばさん、普通は嫌だな。だって、落とし物をしたら探すことができるでしょう? 探し物したら、もっと面白いもの見つかるかも」  思えばハリカもまた、第1話からスケボーや帽子、手袋などを忘れる場面が幾度となく描かれてきた“忘れっぽい子”であることは言うまでもない。  声を上げられず搾取されてきた者、性別を理由に望む道を歩めなかった者、血の繋がらない娘に会わせてもらえない者、病気で外に出られない者、みんなと同じにできない者。「anone」は、どこかに落し物をしてしまった者たちが、嘘や演技や擬似家族といった目に見えない想像力の力で、“もっと面白いもの”を獲得しようとする優しいドラマだ。  だが、そんな作品世界に唯一、不穏の種を持ち込むのが、中世古理市(瑛太)という存在である。4人を偽札製造へと引きずり込んでいく彼もまた、単なる悪役でないことは明白だが、彼のせいでドラマ後半の展開がまったく読めないのも確かだ。第7話以降を、引き続き見守っていきたい。 <TEXT/福田フクスケ>
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