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ドラマ『anone』名ゼリフの意味、『カルテット』とのつながり…もっと楽しむ見方

「anone」のセリフを読み解く 第1~2話】  2018年1月期の連ドラの中で、早くも話題作の呼び声高いのが、『anone』(日本テレビ系・水曜夜10時放送)だ。
「anone」公式サイトより

「anone」公式サイトより https://www.ntv.co.jp/anone/

 主人公は、清掃のアルバイトをしながら、ネットカフェで寝泊まりしている辻沢ハリカ(広瀬すず)。チャットゲームで知り合った顔も知らない闘病中の青年・カノン(清水尋也)と他愛ない会話を交わすのが日課となっている。  ある日、ネカフェ仲間の有紗(碓井玲菜)が、「海岸に大金の入ったバッグが捨てられている」と証言したことから、彼女たちは海岸のある「柘(つげ)」という街へ向かう。そこで、大金(実は偽札)を捨てた張本人である林田亜乃音(田中裕子)や、死に場所を探していた持本鉈(阿部サダヲ)と青羽るい子(小林聡美)の2人組と出会うことで、物語は動き出していく――。

SNS映えする名ゼリフと、「名言怖い」の皮肉

 本作の脚本家・坂元裕二の書くドラマは、昨年大きな話題となった『カルテット』をはじめ、そのセリフが「名言」としてネットでバズることが多い。『anone』でも、第1話から印象的なフレーズが連発された。 「努力は裏切るけど、諦めは裏切りませんしね」 「大丈夫は、2回言ったら大丈夫じゃないってことだよ」 「死にたい死にたいって言ってないと、生きられないからですよね? 生きたいから言うんですよね?」  こうした、いかにも“SNS映え”する言葉たちは、さっそくTwitterのモーメントやNAVERなどにまとめられたが、それを見透かすかのように、劇中で「自分、ちょっと今、名言怖いんで」「名言っていいかげんですもんね」というやりとりが交わされるのが面白い。  それはまるで、自分の書いたセリフが文脈から切り離され、単に“なんかいいこと言った風のパンチライン”として消費されてしまうことを、自虐的に皮肉っているようにも聞こえる。  だが、坂元脚本のドラマの魅力は、決してセリフ単体の強度だけではない。むしろ、言葉の裏に込められた思いを想像させたり、言葉にならない細部の積み重ねから何かを浮かび上がらせたりする作劇の妙にこそ醍醐味がある。  このご時世、“ながら見”をさせない坂元ドラマの密度の濃さはなかなか視聴率には結びつかないが、そのぶん、一部の熱心な視聴者の“視聴熱”や“視聴質”に支えられて圧倒的な評価を受けているのだ。

坂元ドラマに描かれるのは、生きづらい“ハズレ”の側の人たち

 たとえば、医者から余命半年を宣告された持本は、いつもフリスクをちょうど1個出すことができない。それだけならただの“あるあるネタ”だが、経営するカレー屋の照明が明るすぎる、「本日をもって閉店致します」の貼り紙を一枚で書ききれずに紙を貼り足している、といった細部の描写から、彼が世間のペースから“はみ出してしまう”人間であることが想像できる。  ひとたびそのことに目を向ければ、子供時代にみんなと同じ行動ができずに変な子として扱われ、今も周囲から“ハズレ”というあだ名で呼ばれているハリカや、丸の内の商社で優秀な業績を上げていながら、「女だから」と出世コースから“外されて”きた青羽(彼女はその後、会社の倉庫に火をつけ、5年間刑務所に入っていたという)など、このドラマに出てくるのは、いずれも社会に適応できずに疎外されてきた人たちばかりだということに気付く。  ハリカたちが大金を探しに海岸を行く場面では、遠景の工場地帯の煙突からもくもくと白煙が立ちのぼるのが印象的だったが、それを見て『カルテット』を思い出した人は、かなりの坂元マニアだ。 『カルテット』では、欠陥だらけで不器用にしか生きられない登場人物4人の演奏する音楽を、「煙突から出た煙のようなもの。価値もない。意味もない。必要ない。記憶にも残らない」とたとえるセリフがあったからだ。  このように、作品を超えた共通のイメージが頻出するのも、坂元作品の特徴だ。つまり、坂元裕二は自身のドラマで、世間からはみ出してしまう生きづらさを抱えた“ハズレ”の側の人たちを一貫して描いているのである。
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ニセモノ=虚構が大切な居場所になることもある
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