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29歳・キャリア女性の焦りと非モテ女性の笑顔…共感の声続出の映画『29歳問題』

 こんにちは。映画ライターの此花さくやです。  90年代に多くの女性の共感を集めた、山口智子主演のドラマ「29歳のクリスマス」(フジテレビ系)。ひと昔前まで”女の崖っぷち”といえば29でしたが、晩婚化が進む今でも、この数字を意識している女性は多いのではないでしょうか?  それは、日本と海を挟んだ香港でも同じ。29歳の対照的な二人の女性を描いた香港映画『29歳問題』(5月19日公開)は、人生のヒントが詰った作品で、去年の大阪アジアン映画祭で観客賞を受賞した後、瞬く間にSNSの口コミが増えて本国で大ヒットしました。  本作は、舞台女優/舞台演出家として活躍するキーレン・パンが製作、脚本、主演をすべて自分で手がけ、2005年に発表した一人芝居『29+1』を映画化したもの。舞台では二人の女性を自ら一人二役で演じ、この映画で監督デビューを果たしました。
撮影現場のキーレン・パン監督

撮影現場のキーレン・パン監督

対照的な二人の29歳

 パン監督の自伝的映画とも言える、2005年の香港を舞台にした本作には、二人の29歳の女性、イケてるクリスティ(クリッシー・チャウ)とイケてないティンロ(ジョイス・チェン)が登場します。  化粧品メーカーのマーケティング部で勤めるクリスティは、ディレクターに昇進し、キャリアも順風漫歩。昼間はガッツリ働き、夜は女友達とオシャレなレストランでディナー。  でも、周りが結婚を始め、会社で若い子たちが増えるにつれ、なんとなく焦りを感じるクリスティ。今のカレとすぐに結婚したいわけではないのに、職場でも問題はないのに……言い知れぬ不安に駆られます。
なぜか幸せを感じられないクリスティ

なぜか幸せを感じられないクリスティ/『29歳問題』より

 そんなクリスティは、ある日、家主の勝手な都合でアパートを追い出されてしまいます。家主から紹介された仮住まいは、青春時代に流行っていたレコードやキッチュな雑貨が詰った、ティンロの“女の子”っぽいアパート。ちょうどパリに旅行中のティンロは、見ず知らずのクリスティにアパートを貸してくれたのです。
“自伝風の日記”を書くティンロ

“自伝風の日記”を書くティンロ/『29歳問題』より

 ある日、クリスティはティンロの“自伝風の日記”を発見し、そこに描かれているティンロのささやかな日常に引き込まれながらも、羨望を覚えます。ティンロは、お世辞にもキレイとは言えず、レコードショップの店員で将来の展望もなさそう。もちろん、恋人もいない。それなのに、彼女はなぜハッピーなのだろう? なぜ自分はこんなにも不安に苛まされるだろう? 思わずティンロと自分を比べてしまいます。

作者の皮肉が込められた二人のファッション

 本作に登場する二人のファッションは、一見、彼女たちの精神的成熟度を示しているようです。
70年代に流行ったフォークロア調のレイヤードルックに身を包むティンロ

70年代に流行ったフォークロア調のレイヤードルックに身を包むティンロ/『29歳問題』より

 70年代のフォークロア調のレイヤードルックが定番のティンロ。70年代フォークロアは、湾岸戦争や経済的な不安からアメリカで起こった90年代のグランジムーブメントの際にリバイバルしています。ティンロは10代の頃に親しんだであろうこのファッションをいまだ引きずっており、“大人になりきれない女”に見えます。  一方、クリスティの余計な装飾を省いたミニマリズム風ファッションは、1980年代の過剰なファッションへの反動や、アメリカの経済不況の影響で1990年代の主流になり、今では定番化したスタイル。スーパーストレートヘアにクリーンなクリスティのルックは、大人の世界にシンプルに生きる、ブレない“大人の女”のように見受けられます。
クリスティのファッションはクリーンでシンプル

クリスティのファッションはクリーンでシンプル/『29歳問題』より

 ティンロもクリスティも経済的に自立をしているという点では大人。特にクリスティのほうは、キャリアで自己実現しているはず。にもかかわらず、クリスティのほうがハッピーに見えず、恋人と無駄に喧嘩する態度は成熟した大人とは到底思えません。反面、楽しい時間の過ごし方を知っているティンロのほうがよっぽど大人で、幸せそう。  いくら外見が大人になっても、精神的に成熟しているとは限らない。そんな作者のメッセージを感じます。
クリスティのようにたくさんの女友達はいないけれど、ティンロには気の置けない親友がいる

クリスティのようにたくさんの女友達はいないけれど、ティンロには気の置けない親友がいる/『29歳問題』より

 物語が進むにつれ、クリスティは、明るく天真爛漫なティンロもまた、彼女が夢見た人生を生きていないことを知ります。そして、ティンロのある秘密も……。  自分が思い描いた理想どおりの仕事や愛を手に入れる人なんて、滅多にいないのが現実。自分がどんな境遇に置かれても幸せでいられる秘訣、周りの環境が変わっても自分らしくいられる術とは? それぞれの孤独と向き合い、格闘するクリスティとティンロの姿から、自分なりの答えが見つけられそうな、そんな感動の1本です。
『29歳問題』より

『29歳問題』より

<TEXT/此花さくや> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 (c) 2017 China 3D Digital Entertainment Limited
此花わか
ジェンダー・社会・文化を取材し、英語と日本語で発信するジャーナリスト。ヒュー・ジャックマンや山崎直子氏など、ハリウッドスターから宇宙飛行士まで様々な方面で活躍する人々のインタビューを手掛ける。X(旧twitter):@sakuya_kono
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『29歳問題』は5月19日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー 配給:ザジフィルムズ/ポリゴンマジック
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