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「台湾版『ちびまる子ちゃん』を作りたかった」気鋭の女性アニメ監督に聞く

未来が不透明な台湾における成功の定義は「アメリカで成功すること」

――監督の夫は同じく台湾出身で、監督の映画作りの夢から本作の投資家集めまで、監督を支えてくれる素晴らしい方で、お二人はとても幸せな結婚生活を築いているそうですね。それなのに、なぜ監督は本作で夫婦の問題、離婚、シングルマザーなどを描いているのでしょうか?
『幸福路のチー』より

『幸福路のチー』より

シンイン監督「この映画は半分は私の自伝ですが、劇中描かれている夫婦問題は私の人生のことではありません。アメリカで住んで気づいたのは、アメリカ社会ではたくさんの女性が夫婦の問題を抱えており離婚率が高い。なかでも非アジア人男性と結婚したアジア人女性は夫婦の問題に加え、文化の違いによる問題も抱えてしまう。現代女性の殆ど誰もが経験する夫婦の問題、そして異文化カップルならではの夫婦の問題は普遍的だからこそ、女性の人生を語る上で夫婦問題は外せないと思いました」 ――台湾では離婚がまだタブーなのですか? シンイン監督「現代では離婚はもはやタブーではありませんが、アメリカで結婚した台湾人女性にとっては離婚したら帰国しなければならず、これは台湾人にとって受け入れ難いことなんです。離婚そのものが社会的に受け入れられないというよりは、台湾において、『アメリカで成功する』ことが人生における勝ち組と見なされる。要は、アメリカで結婚に敗れて祖国に帰るということは負け組を意味していることなんです。『台湾大学を卒業してアメリカで医者かなにかになって成功し、アメリカ国籍を取得する』というのが最も輝かしい人生であるという価値観が台湾にはあります」
『幸福路のチー』より

『幸福路のチー』より

――なぜ、アメリカ国籍を取得することが台湾人にとって大切なのでしょうか? シンイン監督「それは、中国と台湾の不透明な政治的関係があるからでしょうね。台湾では本来は二重国籍を認めてはいませんが、実際は台湾政府は個人個人の二重国籍をチェックすることはないので、多くの人がアメリカとの二重国籍を持っています。私にはそれが正しいこととは思えない……。  アメリカでの高額な医療費を避けるために、病気の治療のときだけ台湾に帰国する二重国籍保持者がいて、台湾政府に税金を払わずに社会保障だけを利用するのはフェアじゃないと思うんですよね。とは言え、香港で起こっているデモは台湾人にとっても他人事ではないので、万一のことを考えてアメリカの国籍を取得する気持ちも分かりますが……」
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アジア人に対する人種差別はいまだにある
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