大河ドラマで好演の31歳俳優は“リアル歌舞伎界のプリンス”「一見いけすかないけど…」
歌舞伎界のプリンスが出演している安心感がある。横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合)に出演する中村隼人は、時代劇を現代劇として演じる身軽なタイプの俳優である。
演技の重心はもちろん、歌舞伎俳優としての古典的なたたずまいに置き、拠り所にしている。なのに不思議と軽やか。これは本作に欠かせない資質ではないだろうか。
男性俳優の演技を独自視点で分析するコラムニスト・加賀谷健が、大河ドラマに中村隼人が欠かせない理由を解説する。
何となく夜ふけにテレビを見ていたら、歌舞伎公演の巡業CMが映った。カメラ目線の二代目中村錦之助と初代中村隼人が、父子で出演する歌舞伎公演を宣伝していたのである。
東映時代劇スターとして活躍した初代中村錦之助が、彼らの叔父と大叔父にあたるが、二代目とその息子(隼人)についてはあまり知らなかった。でもこの短い宣伝映像を見て、2002年に初代中村隼人として歌舞伎の三大名作『菅原伝授手習鑑』の『寺子屋』でデビューした彼の魅力は十分伝わった。
歌舞伎界にはプリンスと呼ぶべき麗しい役者は多いが、中村隼人はその中でも格別の二枚目。二枚目とはそもそも歌舞伎用語である。現在31歳。色っぽく脂がのってきた頃合い。二枚目オブ二枚目の人である。
歌舞伎俳優だから歌舞伎公演の舞台に立つのが本分だが、連ドラ初主演を果たした『大富豪同心』(BSプレミアム、2019年)など、テレビドラマの世界でも順当に出演作を重ねている。2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下、『べらぼう』)では、将軍直属の家臣である旗本・長谷川平蔵宣以を演じている。
長谷川平蔵宣以は後の「鬼平」のことである。鬼平とは、それこそ大叔父・中村錦之助や二代目中村吉右衛門などの歌舞伎俳優たちが演じてきた時代劇ドラマシリーズ『鬼平犯科帳』の主人公だ。『べらぼう』では、火付盗賊改方として江戸の悪党を退治する前、旗本のボンボン息子時代から描かれる。
初登場は第1回。横浜流星演じる主人公・蔦屋重三郎が務める茶屋・つたやに腰ぎんちゃく2人組を引き連れてやってくる。吉原で遊ぶのが初めてであり、遊び方を知らない。身分をちらつかせて、ふんぞり返っている。一見すると、いけすかない。時代劇ファンがイメージする鬼平とはまるで違うが、このボンボン若侍も意外と憎めない人ではあるようだ。
二枚目オブ二枚目である中村隼人
時代劇ファンがイメージする鬼平

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