ゆきぽよも……安倍首相を「かわいい♪」と思っちゃう女子たちの心理
星野源とのコラボ(?)動画で、自宅でお茶を飲み愛犬と戯れる様子と共に外出自粛を呼びかけるツイートをして、大きな批判を浴びた安倍首相。
「収入が激減している芸術関係者への補償を明確にすることなく、活動自粛を余儀なくされるアーティストのひとりである星野源さんの音楽に便乗し、政治利用している」「社会インフラを支えるために働かなきゃいけない人もたくさんいるのに、自宅での貴族のような優雅な様子をアップするなんて無神経だ」といら立ちを覚えた人も多かったようです。
ただ、批判の声がある一方で、4月19日に放送された『サンデー・ジャポン』(TBS)では、ギャルタレントのゆきぽよが「安倍さんなりに国民に寄り添おうとしたんだなって思って、かわいいなってほっこりしたんです」「なんでもかんでも安倍さんを批判するのはちょっとかわいそうだなって思う」と発言するなど、擁護の声も聞こえます。
SNSでも「おじさんが若者の気持ちを汲もうとしてから回っちゃってる感じがかわいい」「批判は多いけど、かわいいな、ほほえましいって思っちゃった」など、特に女性が安倍首相を「かわいい」と評している意見が少なからず見られました。
父親や、会社の上司がコラボしてスベってたらかわいいで済むかもしれないけど、一国の首相がかわいくてどうする……という気もしますが、なぜ少なくない女子が「安倍さんかわいい♪」と思ってしまうのでしょうか。その心理を、週刊SPA!で時事コラムを連載する文筆家の鈴木涼美さんに聞いてみました。
「単純に、安倍さんが一個人としてはトロくて鈍くて憎めないキャラクター性を持っていること、そして何よりこの人に実権を握られているという感覚がなく、無害で怖くない存在だと思われているからだと思います。栄光を誇った時代も今は昔で、日々リーダーシップのなさが露呈しているなか、犬が川で溺れていたら助けるというように、母性本能を刺激されているのかもしれませんね」(以下、「」内は鈴木さんのコメント)
一国の首相を『かわいい』で許してしまうのは、無自覚にいまの政権の無策ぶりを擁護し、利する危険性はないのでしょうか。
「自民党は昨年ギャル雑誌『ViVi』とのコラボでも物議を醸しました。若者に親しみやすい印象を与えようと、ポリシー以外の部分で意識的にポピュリズム層にアプローチしているのは確かですよね。ただ、その狙いにまんまとノッて『安倍さんかわいい♪』と思ったところで、『かわいい』というのはあくまで見下しの感情に近いので、『かわいいから安倍さんを応援しよう!』と直結するとは考えづらいと思っています。ヒトラーのように『かっこいい』という方向でのカリスマ性は熱狂的な支持に繋がるので怖いですけどね」
とはいえ、『かわいい』が『かわいそう』までエスカレートしてしまうと危険だとも鈴木さんは指摘します。
「先日、漫画家の浦沢直樹さんが安倍さんの布マスク姿をイラストにしただけで、『安倍さんは必死に頑張っているのに茶化すなんてかわいそう! 最低!』と炎上しましたよね。『かわいい』と見下しているうちはいいですが、『かわいそうだからやめてあげて!』まで行き着いてしまうと、反対意見を排除しようという暴力性を持ち始めてしまうので注意が必要だと思います」
日頃のニュースを見て何となく抱く感想も、その感想が大きな目で見たときに政治的にどんな意味を持ち得るのか、改めて考えてみてもいいかもしれません。
<取材・文/牧野早菜生>
安倍さんはトロくて鈍くて憎めない?
『かわいい』が『かわいそう』までエスカレートすると危険
鈴木涼美
(すずき・すずみ)83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。09年、東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』(幻冬舎)、『おじさんメモリアル』(小社)など。最新刊『女がそんなことで喜ぶと思うなよ』(集英社)が発売中