A氏は当時、旬のなかでもトップクラスと例えたらいいのでしょうか。日本でも大人気(海外の俳優さんです)で、
どこから情報を得たのかチェックインカウンターのまわりはファンと思われる女性がたーくさんスタンバイする異例の事態に。

だけどね……特別な手続きを済ませているからそこは通らないんです。A氏とマネージャー、私は極秘裏に合流し、ラウンジへ。せめてA氏の第一印象を? そうですね……。
「ものすごく紳士的でコンシェルジュに対してもレディーファースト」
素晴らしいお方でした。
それはラウンジの中の個室に入り、ひと息ついた後。
A氏は超有名人であるのにも関わらずフレンドリーに話しかけてくれ、私はそれに対して失礼のないように言葉を選びながら答える。そんなやり取りが続き……。

「
君、僕のファンじゃないの? サインあげるよ」と、自身のポストカードとペンを取り出し……。
「名前は? 沙織さんだね(ネームプレートを見て)」
これはいけない! そうです、受け取ってはいけないのです。業務中のことですし(しかもコンシェルジュ)、ラウンジがあるのは出国手続きを終えた後のエリア。このエリアにあるものは原則持ち出してはいけませんから。
「
とても嬉しいのですが、受け取ることができない決まりなのです」
早口でそう答えると、それまでのA氏の楽しそうだった表情が一変。
目がギュンッと吊り上がり……「
は? 僕のサインいらないってこと?」
いやいやいや、欲しいですよ。心から。だけど、規則だからお断りするしかないんですね。