「90点取っても『100点取らなきゃダメだ』という家庭だった」(水野さん)
――コンプレックスや辛い気持ちがなかったら作家になっていなかったかもしれないですね。
水野:そうなんです。僕も両親といろいろ喧嘩した時期があります。心療内科の先生に両親のことを相談したこともありますが「おまえの親御さんは病気じゃなく、すごくこだわりが強いだけの人だ」と言われました。むしろ、何らかの病名がついたほうが楽だったのですが、これは一生をかけて向き合っていくべき問題なんだと思いましたね。
我が家はテストで90点を取っても「100点取らなきゃダメだ」という、いわゆる条件付きの愛情を与える家庭でした。心理学書にある「こうなると人の自己肯定感が低くなる」ということが全部あるような場所だったんです。ただ、一方で、僕の教育に対してすごく時間を割いてくれていたんですよね。
大人になってみると、自分の時間を人に割くことがすごく難しいことがわかるから、自分の時間――命を僕にたくさん使ってくれたことに「ここは本当に感謝しています」とメールで送りました。そうしたら関係が少しずつ変わってきて。だから自分の手で分かり合える可能性をゼロにする必要はないと思います。ただ少し前も母の日に、電話で話してたらやたら怒ってくるので「こんなにお花もお金も送ってるのに、何で怒られてるんだろう?」とは思いました(笑)。やはり一生をかけて向き合っていく問題なんでしょうね(笑)
鈴木:私も今、両親に毎日はがきを書いているんです。この先、『青に、ふれる。』でも、瑠璃子や神田先生のそれぞれの親との関係も描きたいと思っていて。でも「その前にやっぱり自分だろ」ということで、6月頃から毎日書いています。
実は私も、母親ともいろいろあったのですが、「これを感謝してる」「お母さんのこういうところ尊敬する」「小さいときこういう楽しい思い出あったよね」ということだけを書いていて。そうしたらちょっと母親の変わっていくところが見えて、何より私自身の気持ちもポジティブな方向に変わっていったんです。とはいえ「そこは変わらないのか」ということもまだまだありますけどね(笑)。
――すぐにわだかまりが消えるわけではないし、相変わらずイヤだなと思う部分もある。わだかまりやイヤな部分も含めて、水野さんのおっしゃる人間のバリエーションであり、必要なグラデーションですよね。そしてそれは、自分のコンプレックスと向き合い、自分のことも他人のことも認め合う上でも、忘れてはいけないことかもしれませんね。
【第1回対談】⇒
顔に青あざがある少女を描く漫画『青に、ふれる。』が伝えたいこと
【第2回対談】⇒
“見た目”で苦しんだ自分が救われたくて――アザがある少女の物語
●鈴木望
漫画家、山形県出身。『月刊アクション』(双葉社)にて、太田母斑の少女×相貌失認の先生の物語『青に、ふれる。』を連載中
●水野敬也
作家。著書に『夢をかなえるゾウ』、『人生はニャンとかなる!』など。また、恋愛体育教師・水野愛也として、著書『LOVE理論』、『スパルタ恋愛塾』がある
<取材/和久井香菜子 構成・執筆/ブラインドライターズ執筆部 撮影/我妻慶一>