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外見のコンプレックスとどう付き合うか。深層にある「親との関係」<鈴木望×水野敬也対談>

 太田母斑という、顔にアザのある少女と、人の顔が見分けられない相貌失認という症状を持つ教師の物語『青に、ふれる。』の作者である鈴木望さんと、『夢をかなえるゾウ』シリーズや、見た目に症状を持つ当事者への取材をまとめた『顔ニモマケズ』などの著書で知られる水野敬也さんの対談、最終回です。
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鈴木望さん(右)と水野敬也さん(左)

 今回は、コンプレックスとどう対峙するか、そして家族との関係について語られました。誰もが心当たりのある、心の奥底を覗く内容です。

見た目の症状を「見ちゃいけない」のか「見ていい」のか迷う

――今回の対談で、太田母斑以外にも、口唇口蓋裂(唇や口蓋、歯茎などを左右に分裂するような亀裂が生じた状態で生まれる症状)、脱毛症、アルビノ(メラニン色素が欠乏していて、皮膚、髪、目などが白い症状)など、さまざまな見た目の症状についても触れてきましたが、こうした「見た目問題」に触れるとなると、「見ちゃいけない」のか「見ていい」のか、迷う人もいそうです。 鈴木:『青に、ふれる。』を描き始めてから、読者の方からよく「そういった症状の方とどのようにコミュニケーションを取ったらいいですか?」という質問をいただきます。でも「見ちゃいけない」のではなく、そこにいる一人として接すればいいと思います。  私の場合は、「気になって見ちゃうんだよね」と言われたらちょっと嬉しいかもしれない。興味を持っていただいたということですから。無視されたりとか、過剰に気を遣われるほうがいたたまれなくなります。 水野:そうですね。確かに「見ちゃうんだよね」って言葉に対して、「見ないでほしい」という意見もわかります。でも悪意じゃないと伝えることで、対話が始まるかもしれないですよね。結局は目の前の人に対しての優しさや愛情がベースにあるかどうかが重要になりますよね。 鈴木:一人一人の事情は違うので一概には言えませんが、素直に感じたままを伝えてもらえるほうが、こちらも素直に感じたままお返しできると思います。
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「無視よりは『気になって見ちゃうんだよね』と言ってもらえたら」(鈴木)

「アザをどうするか?」ではなく「どう生きたいか?」と考える

――作中に、主人公と同じ症状を持つ友人で、メイクでアザを隠す女の子と、手術で治した女の子が出てきますね。顔のアザとどう向き合うかと考えたときに、さまざまなパターンがあると思いますが、主人公はこれからどういった選択をしていくのでしょう? 鈴木:描かれていることを「これが正解だ」と思って読む方もいると思うので、主人公の選択=唯一の正解、という描き方はしたくないと思っています。アザの治療も、地域格差や経済格差、世の中の風潮や親の美的価値観、社会的価値観にも影響されている気がして。  太田母斑の場合は、経年やホルモンバランスなどの影響で、治療をしても濃くなったり再発したりすることがあります。そうすると、その都度お金と時間をかけて治療するのか、という問題が出てきます。だからこそ「アザをどうするか?」ではなく、「自分はどうしたいか?」「どう生きたいか?」と考えると、答えが出るんじゃないかと思うんです。
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©鈴木望/双葉社

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レーザー治療やカバーメイクを選択する太田母斑の友人たちも登場する ©鈴木望/双葉社

水野:見た目に対して対症療法的に向き合うのではなく、その先にある「自分はどう生きたいか」を考えるというのは、見た目に症状を持つ人に限らず、コンプレックスと向き合う上で重要なテーマですよね。 ――外見のコンプレックスを解消するために整形をする人もいますが、整形して悩みが消えればいいけれど、何度も繰り返しても楽になれない場合は、問題はそこではないわけですもんね。 鈴木:整形することで悩みがなくなったり楽になるのなら一番いいと思います。でも楽になれないなら、その場しのぎなのかもしれません。ある人が、コンプレックスを火災報知器に例えているんです。ずっと火災報知器が鳴っているとしますよね。「うるさいな」と思って止めても、どこかで火事は起こっているわけですから、その火事を見つけないといけない。 水野:資本主義社会では、見た目で判断するとコストがかからないとされている部分もあって、面接でも、現在の社会の基準で見た目がいいとされる人が通りやすかったりもする。それによって社会が動いていて、生きづらさを感じる人もいると考えると、誰もが当事者になり得るんですよね。  また、『顔ニモマケズ』でも書きましたが、表面に出てきていないだけで、細胞のレベルでは、みんな何らかの障害を持って生まれてくる。
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「なんでレーザー治療しないの?」
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