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「渡部出禁」「松ケン炎上」…ほぼフェイクで釣るネットニュースの不毛な戦い

実に「おいしい」記事の量産方法

 各編集部は正直「消耗戦」になっています。文春をはじめとした取材力のある週刊誌系が出した記事の後追いをすればいいだけ。たとえばこんな感じです。 「渡部建・東出昌大、二大最低オトコに『どっちがマシか』論争が勃発」(エンタMEGA/2020年6月14日)  これは取材力のないメディアが、明らかにPVが取れる渡部と東出両方の名前を見出しにだすことができ、さらに「論争勃発」とネットの声を紹介するつくりになっています。結局炎上を渡部と東出に押し付け、自分達はPVを稼ぐことに専念できる。実に「おいしい」記事の量産方法です。 SNS あと、イメージ低下、というワケではないものの、これは「ちょっとやり過ぎでは(苦笑)」というタイトルもあります。 〈止まらない衝撃!阪神・ロサリオ、2戦連発シーズン95本塁打ペース〉(サンスポ/2018年2月13日)  紅白戦2試合を終えたところ「実戦3試合で早くも2発。シーズン95本塁打ペースに金本知憲監督(49)も大喜び。極上トロ(闘牛)のバットが止まらない!!」という記述がタイトルの根拠になっています。これをスポーツ紙本紙でやるのであれば、まぁ、カネを払って買っているので自己責任ですが、ネットではいかがなものかと思います。  どう考えても紅白戦3試合で2本ホームランを打ったからって143試合制の公式戦でもそのペースで打てるわけないじゃないですか。この理屈だったら紅白戦初日に1本ホームラン売ったら「シーズン143本塁打ペース」と言うことができるようになる。

数人のツイートで「炎上したこと」にされたサザエさん

 そして、②〈数人のツイートを見て「タレントの〇〇炎上」「賛否両論」「怒り」〉といったニュースを出す件です。 〈松山ケンイチの“嫁呼び”に女性視聴者が怒り「この発言はマズい」〉(まいじつ/2021年2月21日)  についてですが、ネットニュースの安易な作り方は「ツイッター上で怒っているごく少数の人を見つけ、『怒り』『賛否両論』『炎上』と煽る」ことにあります。その記事を出すことにより「炎上したこと」にされるのです。  昨年、『サザエさん』(フジテレビ系)について、デイリースポーツのオンライン版がこの見出しで報じました。というか、ただテレビ番組の内容を紹介し、ネットの声を集めただけだけどよ。 〈「サザエさん」がまさかの“炎上”…実社会がコロナ禍の中でGWのレジャーは不謹慎と〉(2020年4月26日、現在はタイトルを修正)
『サザエさん』

(画像:フジテレビ『サザエさん』公式サイトより)

 しかし、その後の東京大学准教授の鳥海不二夫氏による検証では、「4月26日のサザエさんが不謹慎だと言った人は11人しかいなかった話」とのことです。要するに、「サザエさん」でコロナ禍のGWにレジャーに行くことについて「不謹慎」と指摘した数人がツイッターにいたことにより「炎上」というタイトルをつけたわけですね。  11人が否定的な意見を述べただけで「炎上」というのはマズいと思ったのか、後に「サザエさん 実社会がコロナ禍の中でGWのレジャーは不謹慎との声も」に変えています。確かに「『不謹慎』と指摘する声はあった」わけなので、これは「まさかの“炎上”」よりは実態を表しているものの、一部の極端な人の声を基に過激タイトルをつけるのは「クソ野郎!」と私は言いたい。  最近マナー講師のことを「失礼クリエーター」と呼ぶようになったが、ネットニュースの編集者ども、貴様らこそ「炎上クリエーター」じゃ、ボケ! <文/中川淳一郎>
中川淳一郎
フリーのライター・編集者。一橋大学卒業後、博報堂で企業のPR業務を担当。退職後、雑誌編集者を経て「NEWSポストセブン」などのニュースサイトの編集者に。著書に『ネットは基本、クソメディア』(角川新書)など。noteで「月刊お気楽フリーランス論」を発信中。
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