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Vol.20-2「子供がいない結婚に意味はあるの?」不妊治療を諦めた夫婦の残酷な結末

言語化できなかった「後ろめたさ」

 その後、石岡さんと咲さんは、1年近くに及ぶ離婚の話し合いに入るが、その詳細は書かないでほしいという。石岡さんの現在の状況についても明かすことはできない。  取材もそろそろ終わりという頃、石岡さんは唐突に告白した。 「あのとき僕は『子供がいない人生も、子供がいる人生と同じように、別の幸せがある』と咲に言いましたけど、多分、言った僕自身が、心からそれを信じていなかったんだと思います」 「当時は言語化できませんでしたが……」と石岡さんは続ける。 「僕、“人として本来は取り組むべき子育てに取り組んでいない”という後ろめたさを抱いたまま、あと何十年も生きていくのは結構しんどいなって、当時からうっすら思ってたんですよ。正直言うと」 ※写真はイメージです 石岡さんの“人として本来は”に異論はあったが、飲み込んだ。 「咲は僕の本心を見透かしたんでしょう。あなたは子供がいない人生を引き受ける覚悟がないのに、そう言ってるよね? と。その通りです。僕、あの時から心のどこかで予感してたんですよ。子供がいない人生って、たぶん暇だなって」

「すべて予測可能」という絶望

 「暇」とは? 「仕事は嫌いじゃないけど、それを頑張って、お金がもらえて、だからどうなるの?ってことですよ。今さら自己実現って歳でもないし」  趣味や友人、何より咲さんというパートナーを大事にして生きていく人生では不足なのか。 「それ全部、現在の延長上にある要素じゃないですか。もちろん大切は大切ですけど、それらの行く末って予測可能の範囲内に収まるものでしょ? 子供をつくって育てることほど予測不可能性に満ちてはいない。エキサイティングじゃない。ドキドキしない。僕は40歳の時点で、人生の後半生に全身全霊で取り組むことが、“子供”以外に浮かばなくなっちゃったんです」  それが「暇」の意味なのか。 「本当の絶望は、何か災厄や不幸が訪れるってことじゃない。“この先の人生、予測可能なことしか起こらない”ことが、絶望的に、絶望なんです」 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
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