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Vol.20-2「子供がいない結婚に意味はあるの?」不妊治療を諦めた夫婦の残酷な結末

ぼくたちの離婚 Vol.20 咲かずして散る花 #2】  先日、不妊治療を行う女性たちが強いられる精神的なストレスについて、国内初の本格的な調査が実施されたと報じられた。そのストレスが夫婦関係に深刻な亀裂を生じさせることも、少なくない。石岡敏夫さん(仮名/現在48歳)と咲さんの夫婦も、治療の末に家庭が壊れてしまったケースである。  石岡さんと咲さんは、それぞれ43歳、36歳のときに高度不妊治療(顕微授精)を開始。だが子供は授かれず、夫婦関係は徐々に冷え切っていった。3年間で300万円近くの費用をかけたのち、石岡さんが46歳、咲さんが39歳のときに治療を中止。中止を決めた数週間後、咲さんが深夜に嗚咽し、子供を授かれない絶望を敏夫さんにぶちまける。敏夫さんは思った。「こんなことなら、子供なんて欲しがらなければよかった」と。 【前編はコチラ】⇒不妊治療に300万円。心が壊れた妻は「これは何の罰?」と号泣した
※写真はイメージです

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40代、肉体の衰えに感じた焦り

 結婚願望は20代からあったものの、ずっと子供が欲しいと思ったことはなかったという石岡さん。しかし40歳で突然欲しくなった。きっかけは肉体の衰えを実感しはじめたからだという。 「30代の間はずっと若い気分でいたし、実際、同世代より若く見られることも多かったんですが、40歳になった頃から、老いが気になり始めたんです。昔より明らかに“下半身の衰え”を感じるというか……。はい、朝起きてすぐのあれです」  衰えは下半身にとどまらない。 「長時間ぐっすり眠ることができなくなったし、酒にも弱くなった。切り傷はなかなか治らない。タバコを吸ってないのに昔ほど深呼吸ができない。髪の毛も、はげてきたというほどではないですが、前髪の伸びるスピードが襟足に比べて明らかに遅くなり、毛も細くなってきました」  仕事でストレスを溜めていたわけではない。むしろワークライフバランスはそれまでの人生で最も理想的だったという。健康診断でも人間ドックでも何も出てこなかった。つまり、単なる老化である。 「一番ショックだったのは、いくら筋トレをしても体が締まらなくなったことです。食事を控えれば細くはなりますが、皮膚が情けなくたるっとしてしまう。内臓も落ちてきて、下腹部はぽっこり。腹筋を鍛えてもシルエットはほとんど改善されません」  肉体のピークはとっくに過ぎていて、もはや下り坂。そんな当たり前のことに、40になるまで気づかなかった――と、石岡さんは自嘲気味に言った。 「これから自分の肉体はひたすら衰えるだけ。この先の人生、僕はゆっくりと朽ちるのみなんだという残酷な事実を、風呂上がりに鏡の前で思い知らされましたよ

「ここで、途切れるんだ」

 肉体の衰えが、子づくり願望とどうつながるのか。 「ふと……ものすごく怖くなったんです。それまで人生の終わりを意識したことはなかったんですが、生まれて初めて、自分は日一日と死に近づいてるんだと実感して。いつか自分という存在は、この世から消えてしまう。それを考えると、ぞっとしました」  夜、寝床で目をつぶると、「自分の体が暗い液体になって、闇に溶けてしまうイメージを想像するようになった」という。 「ああ、僕はここで“途切れる”んだ、と。その恐怖を回避するには、自分の次世代を、つまり子供を作ればいいと思い至ったんです」 ぼくたちの離婚 Vol.20 #2 石岡さんはその時のことを、「頭の霧が晴れるようだった」と形容した。 「なぜ世の中の人は、自分のために使えるお金を減らしてまで子供をもうけようとするのか。なぜ親というものは、自分の身を挺してまで子供を守ろうとするのか。最愛の人との愛の結晶とか、石岡の血統を絶やしたくないとか、そんな教科書通りの話じゃない。もっと個人的に、心の底から納得できる子作りの動機を、はじめて見いだせたと思いました」  そのタイミングで交際をスタートしたのが、咲さんだった。
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「すごくいい母親になれると思うんだ」
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