たとえば、これが「友よ ほんとうの空に とべ!福島国体」の開会式で歌うのであれば、完全無欠の100点満点の選曲なわけです。日本人による日本人のための、ごく限られた日本人にしか興味のないイベントでやる分には、何の問題もない。

1971年、「翼をください」を発表したフォークグループ「赤い鳥」。写真はCD『赤い鳥ベスト』
しかし、夏のオリンピックとなると、向けられる視線がその比ではありません。しかも、すべてが好意的に見ているわけではなく、スキあらば日本の弱点を洗い出そうとする批判的な視線を覚悟する必要もあるでしょう。
そうした無数の冷徹な他者を前にして、「翼をください」の大合唱は、あまりにもナイーブなのではないかと、かなり心配になります。
時節柄、反戦や権力の横暴に対する抵抗のメッセージが込められているのだとしても、楽曲自体がドメスティックである限り、スムーズに意図を汲めるのは日本人しかいない。曲を知っているか知らないかの差は、それほどに大きいのです。
そうした偏差に気づかないのだとすれば、残念ながらインターナショナルとは程遠い感性だと言わざるを得ません。まあ、“おもてなし”どころじゃない状況なんですけどね。
開催決定から8年。今のいままで壮大なグダグダ絵巻を見せられてきた感は否めません。だからこそ、そんな現実から一瞬でも目を背けたい。ああ、自由に空を飛びたい。多くの国民の正直な感想なのではないでしょうか。
そう思うと、「翼をください」もアリだったりして。
<文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4