――本書の中では、M-1グランプリ放送後に出場者から「更年期」「ババア」などと暴言を吐かれた審査員の上沼恵美子さんが、翌年の番組オープニングで「更年期を乗り越えました!」と言って会場を沸かせたという「更年期ギャグ」についても触れられています。

上沼恵美子「あかんたれ」テイチクエンタテインメント
吉川「更年期なんて、笑えばいいと思うんですよ。あ、とろサーモンの人が上沼さんを更年期で笑うのはナシだけど、
上沼さんが自分の更年期を笑いにして、あのアンサーをしたというのは超いいじゃないですか。思い出しても笑っちゃうんですけど」
――「自分がおばさんになること」に恐怖心を抱く女性は多いと思います。他人にどう思われているのか気になりますし、おばさんになっていく自分とどう対峙していいものか……。
吉川「『加齢ネタ』で忘れちゃいけないのが、阿佐ヶ谷姉妹ですね。これまでのお笑いというのは、『私、もうおばさんだからさー』みたいな自虐ネタが多かったと思うのですが、
阿佐ヶ谷姉妹は全然違って、普通におばさんでいることが可愛らしいしおかしいし、というのであんなに人気があると思うんです。割と謙遜(けんそん)する方達ではあるんですけど、そんなに自虐っぽくはないから、そこが今の世の中にウケてるんだろうなっていう気がします」
――上沼さんや阿佐ヶ谷姉妹、吉川さんのような方々がこうして話題にしてくれることで、私たちもそれに乗っかって、ネガティブになりがちなことも、自分から笑いに持っていけそうな気がします。
吉川「ややもすると不謹慎と言われるような、
ネガティブになりがちな話題において、“笑えるか笑えないか”の違いはなんだろうというのをずっと考えてきました。まだ自分の中でもはっきりとしていないのですが、当事者性(自分に関連付けるかどうか)の問題はひとつあるんじゃないかという気はしています。
不妊にしろ障害にしろ加齢にしろ、第三者がその属性に勝手にネガティブな意味づけをするのではなく、当事者が発信するのであれば、笑いになり得ると思うんです。
もちろん、言いたくない人は言わなくても良いという大前提はありますが、更年期ギャグも閉経ギャグも、もっといろんな人から聞きたいですね」

写真はイメージです
笑いにすることで、「目に見えない壁」を弾き飛ばそうとしている吉川トリコさん。その姿勢に、勇気付けられます。なんでも「不謹慎」「アウト」と決めつけて丸々タブーにするのではなく、「どこで線を引けばいいかな?」と立ち止まって考えてみることも、時には大事なのかもしれませんね。
【吉川トリコ】
1977年生まれ。2004年「ねむりひめ」で女による女のためのR-18文学賞大賞・読者賞受賞。2021年「流産あるあるすごく言いたい」(『おんなのじかん』収録)で第1回PEPジャーナリズム大賞オピニオン部門受賞。著書に『しゃぼん』(集英社刊)『グッモーエビアン!』『マリー・アントワネットの日記』(Rose/Bleu)『
おんなのじかん』(ともに新潮社刊)などがある。
<取材・文/日向琴子>
日向琴子
漫画家 / コラムニスト / ラブホテル評論家 / 僧侶 / 様々な職業を転々としたのち、2020年末に高野山別格本山「清浄心院」にて得度・出家。運送屋、便利屋のパートで学費を稼ぎながら、高野山大学大学院にて密教学勉強中