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「ちむどんどん」三浦大知の主題歌がガチでいい曲過ぎて浮いているワケ

誠実さが投影されたような曲がドラマのトーンと噛み合っていない

「燦燦」は三浦大知という人の誠実さが投影されたような曲です。字句のひとつひとつを丁寧に発音し、ボーカルメロディは二度の転調を経て着実にクライマックスへ向かっていく。 <響いて この歌 あなたは 降り注ぐ順光線  続く空に踊る光 「大丈夫 ほら 見ていて」>  このフレーズとメロディに皮肉めいた仕掛けはありません。歌詞そのままの真っ直ぐな思いであり、その道徳的な正しさを素直なハーモニーが下支えしている。中高生に合唱させたい曲ナンバーワン。そういう曲なのです。  しかし、これがどうにもドラマのトーンと噛み合っていないから困ってしまうわけです。寿司屋だと思って入ったらカレーが出てきた、みたいな。  そこに詰めの甘さを感じたのですね。プロットや演出の意図と音楽のトーンが致命的に食い違っている。そのズレがユーモラスな質感を与えるわけでもなく、「燦燦」のマジメさが宙ぶらりんになっているのみ。 “じゃあ「借金大王」(ウルフルズ)みたいな曲だったらいいのか”と言われると、それもフィットする絵が浮かんでこない。そこまでわかりやすいバタバタ要素もなかったからです。

脚本家&制作陣が共有のイメージができていないのが原因か

 そう考えると、『ちむどんどん』をひと言で言い表せるニュアンスのようなものが存在していない。それこそが問題なのではないでしょうか。  本作は脚本家、そして制作と演出のトップがアイデアを出し合う形式で制作されたとのこと。けれども、誰も作品のモチーフである料理についての知識がなかったのだそう。『ちむどんどん』のガイド本で以下のように語っています。  <「白状しますと、僕たちおじさん3人は料理の知識がまったくないんです。」(羽原氏) 「僕にとって料理は『美味いか、不味いか』ではなく、『食べられるか、食べられないか』。そういうレベル」(チーフ演出、木村氏)> (『連続テレビ小説ちむどんどんPart1 NHKドラマ・ガイド』NHK出版より)
『ちむどんどん』

『連続テレビ小説 ちむどんどん Part1(1)(NHKドラマ・ガイド)ムック』(NHK出版)

 これで謎がとけました。根幹の部分で共有できるイメージがないのだから、匂い立つようなオーラが生まれるはずがありません。もしこれが自虐ではなく本音だとしたら、複雑に異なる要素をまとめてひとつの“味”にする以前の問題なのではないでしょうか。  そりゃ主題歌のことにまで頭が回るわけないよな。しゃあない。 【関連記事】⇒『ちむどんどん』に毎朝ツッコミたくなる2大理由。ヒロインの厚かましさだけじゃない <文/石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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