「悩む稲垣吾郎」がすばらしい。私たちを静かに肯定してくれる映画『窓辺にて』を読み解く
映画『窓辺にて』が2022年11月4日より劇場公開されている。目玉は稲垣吾郎が主演を務めていること。そして、彼が後述する「ある悩み」を抱えた男性に見事にハマっていることだろう。
143分という長めの上映時間ではあるが、あっという間に感じるほどに本作は面白い。監督は『愛がなんだ』(2019)や『街の上で』(2021)などの恋愛映画で支持を得ている今泉力哉。男女の会話劇を、時にクスクス笑えて、時に人生の深淵を垣間見させるように表現するその手腕が今回も冴え渡っていた。さらなる魅力を記していこう。
あらすじを簡単に紹介しよう。フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は、編集者の妻・紗衣(中村ゆり)が、担当している売れっ子作家と浮気していることに気づいているものの、何も感じないでいる自分にショックを受けていた。ある日、茂巳は文学賞の取材で高校生作家・久保留亜(玉城ティナ)と出会い、その小説のモデルの人物と会ってみないかと提案される。
まず面白いのは、稲垣吾郎と玉城ティナが演じる、年齢はもちろん内面もまったく異なる2人が出会い、なんだかんだで打ち解けていく様だ。彼らは喫茶店で、「パフェの語源は何か」といううんちくから派生した、「後悔」にまつわる考えを話し合ったりする。
その後もさまざまな会話に「なるほど、そういう考え方もあるのか」と共感できたり、かと思えば「それはさすがに極端でしょ」とツッコミを入れたくなったりもする。それぞれが取り留めのない会話のようでいて、その過程では登場人物の成長も垣間見えるし、前の会話が後の会話とつながっていたりするなど、計算され尽くされている。もっと言えば、「パフェを食べながら話し合うだけで面白い」ことが、この『窓辺にて』の最大の魅力だ。
稲垣吾郎演じる主人公は、妻が浮気をしていることに「ショックを受けないことにショックを受けている」。そこだけを切り取れば非人間的な印象を持ったり、または理解できないという人もいるかもしれないが、映画本編を観れば、多くの人が彼に「誠実」や「生真面目」といった好印象を持つのではないか。
なぜなら、彼は玉城ティナ演じる高校生作家と知り合ったことを(おそらく)きっかけにして、長年の友人や、はたまたこれまで接点を持たなかった人たちにも、その悩みを打ち明けていくからだ。そして、妻の浮気にショックを受けない自分はおかしいのかと、必死なまでに誰かに聞いていく。そのことが、妻への愛情が確かにあるという証拠とも言えるし、その不器用な様が愛おしく映ったのだ。
そもそも、何かの事象に対して「周りの人間が喜んだり悲しんだりしているのに、自分は何も思わないなんて、おかしいんじゃないか」と思うこと、転じて「誰かに理解してもらえない(と思い込む)こと」は、浮気の話に限っていない、実は普遍的な悩みとも言えるのではないだろうか。彼がまったく特別な人間ではない、普通の人だと思える人もいるはずだ。
パフェを食べながら話し合うだけで面白い

ショックを受けないことがショックという悩み
