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山﨑賢人のキラキラした瞳が美しい…『アトムの童』でみせる細やかな演技

アトムの童の「申し子」

 ゲームショーの会場でひときわ派手なパフォーマンスで来場者の心を鷲掴みにしていたのが、宿敵「SAGAS」の社長・興津晃彦(オダギリジョー)。興津がステージに上がった瞬間、那由他の顔色からさっと血の気が引く。因縁の関係性が短い回想で語られたあと、彼はただじっと、恐ろしいくらい静かに、ステージでおどける興津を見据える。闘争心剥き出し、相手に挑戦状を叩きつけるエモーショナルな眼差しは、『キングダム』(2019年)で山﨑扮する中華一の大将軍を目指す主人公・信よろしく、力強く堂に入った視線の演技がお手の物。  山﨑がまだ“実写化王子”だった2010年代頃、すでに強い眼差しの演技は特徴的だった。黒目がちな彼の瞳は、相手をじっと見据える。ただ黙って見つめているだけなのに、その黒目がなにかとてつもなく大きなものを物語っているのが、不思議だ。見つめるとは言っても、誰か特定の相手が目の前にいることがあれば、明確な相手がいないときもある。相手がいないときには、まるで時空を超えてその人にテレパシーを送るような強い眼差しを向ける。それは、念力に近い。見る者の想像力を掻き立てる山﨑の視線の演技は、年々強く芯のあるものになっている。  ここで気になるのが、『アトムの童』というタイトル。要するに、主人公の那由他がアトム玩具製造の玩具にみせられた童(わらべ)だということだが、彼は子どものようにきらきらした眼差しでガチャガチャをやったりプラモデルを組み立てる。目へんに童で、瞳。黒目がちな美しい瞳を持った山﨑賢人こそ、アトムの童の「申し子」なのである。

正義の光を宿す“アトムの瞳”

 天才肌なんだけれど、那由他のようにとっつきにくくて、ぶっきら棒、でもどこか可愛げがある役柄は、山﨑が得意としてきたキャラクターだ。その頑固さ故に、「ジョン・ドゥー」の共同名義者である菅生隼人(松下洸平)と喧嘩別れして以来、那由他はゲームをつくらなくなった。彼の屈折した葛藤を山﨑のあの瞳が訴えてくる。  決別後、「ジョン・ドゥー」にとっては敵であるSAGASの社員となった隼人は、那由他を裏切った薄情者かに見えた。だがその実、彼は自分たちから革新的なゲーム技術と大切な親友の命を奪った興津への復讐の機会を狙っていただけだった。契約書にサインしようとする手をとめた隼人に興津は言う。ビジネスで成功するには、未来に目を向けること。さらに、過去はさっぱり流すとも。悪党の言葉はとことん卑劣だ。  それに対して那由他は正反対。彼が目を向けているのは、未来であり、過去でもある。過去から未来へぶれない一本線が通っているから、現在から過去を振り返り、未来を見据えることが出来る。アトム玩具を継いだ海の尽力で誤解が解かれ、那由他と隼人は昔のようにまた一緒にゲームをつくりはじめる。  同じ間違いは二度としたくない。那由他は、そう隼人に語る。過去を知らずして現在はない。未来にも繋がらない。では、アトムの童の「申し子」は、きらきら輝くその瞳でなにを見るのか? 第5話、興津と結託した銀行の計略でアトム玩具は、SAGASに買収されてしまう。差し押さえにきた行員から、即効立ち退きを命じられるのだが、それでも“アトムの瞳”は、正義の光を宿している。 <文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト/アジア映画配給・宣伝プロデューサー/クラシック音楽監修 俳優の演技を独自視点で分析する“イケメン・サーチャー”として「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:@1895cu
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