忖度せずに描いたのに途中から忖度してくださいと言われてしまった

――『「神様」のいる家で育ちました』第5話を発表後、連載中にも関わらず、公開終了となりました。あとがきに描かれていましたが、編集部から宗教ではなく毒親の話として描くのはどうかと打診された時に、「みなさんが伝えたいのはそんなことじゃない」とハッキリ断ったのは、非常に勇気のあることだと思いました。
菊池:忖度(そんたく)せずに描いたのに、途中から忖度してくださいと言われてしまったので、それだと意味がないなと思って。今まで世間がしてきたことを変えていきましょうって担当さんが言ってくれたのがそもそものスタートだったのに、結局同じことをしましょうってことになってしまったので、それは飲めませんと言って、連載のお断りをしました。
――公開終了となった時は、SNSで大きな話題となりました。いろんな反響があったと思いますが、どんな声に励まされましたか?
菊池:当事者の人はわかってくれるだろうという気持ちで描いていたんだけれども、宗教2世じゃない人たちから、「せっかく知る機会をもらったのに、途中で終っちゃうのはひどい」という声をいただいたのは、嬉しかったですね。
――内容もですが、この本が生まれるまでの過程も波瀾万丈ですね。
菊池:宗教2世がどういう目に遭ってきたかを、この本を出す過程がもう1回再現しているなっていう感じがあって。まさしく追体験というか。クレームが来た時も、こっちもアドレナリン出てるから、そんなにショボンとはならなくて。来たか!みたいな(笑)。
――そして、文芸春秋社から発売が決まった矢先に、安部元首相銃撃事件が発生しました。容疑者が宗教2世だとわかった時、どう思われましたか?
菊池:ニュースを聞いて、本当に単純にビックリして。容疑者が宗教2世だとわかった時に「宗教2世ってこういうヤバイ奴だと思われたらどうしよう」と、最初は怖かったです。
――事件後、宗教2世という言葉がメディアで盛んに取り上げられるようになりましたね。
菊池:私がこの漫画を出しても、こうはならなかったと思います。どうしても山上容疑者の事件があってのことだと思うので、やはり複雑ですよね。あんな事件は肯定できないし、起きて欲しくない事件だったけれども、それによって今こういう風に注目されているという事実を受け止めるには、言葉を選びますね。難しいです。
――もし山上容疑者と話す機会があるとしたら、どう声をかけますか?
菊池:なんだろう…。やっぱり「つらかったね」ですかね?気の利いた言葉が出てこないですね。