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宇垣美里「私は正気を保っていられるのだろうか」新しいトラウマが増えた理由

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが映画『ピンク・クラウド』についての思いを綴ります。
映画『ピンク・クラウド』

映画『ピンク・クラウド』

●作品あらすじ:世界中で突然発生した毒性のピンク色の雲によって部屋の中に閉じ込められてしまった人々、それは一夜の関係を共にしていた男女、ジョヴァナとヤーゴにとっても同じでした。 10秒間で人を死に至らしめる毒性の雲のため、家から一歩も出られなくなった人々の生活は一変。ジョヴァナは、友人の家から帰れなくなった妹、看護師と閉じ込められた年老いた父、自宅に一人きりの親友…彼らとオンラインで連絡をとりあううち、いつ終わるともしれない監禁生活のなかで、家族や友人の状況が少しずつ悪い方へ傾き始めていることを知ります。 そして見知らぬ他人であったジョヴァナとヤーゴも現実的な役割を果たすことを迫られます。父親になることを望むヤーゴに反対していたジョヴァナでしたが、やがて男の子・リノを出産。以前の生活を知らないリノは、家の中だけの狭い世界で何不自由なく暮らし、父となったヤーゴも新しい生活に適応しています。一方、ジョヴァナの中で生じた歪(ゆが)みは次第に大きくなっていきます……。 ブラジルの新鋭監督がコロナ禍前の2019年に撮影した本作を、宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

触れると10秒で死に至る雲

映画『ピンク・クラウド』

『ピンク・クラウド』より

あれよあれよという間に突入したコロナ禍。通りから人の消えたあの日々、私が感じていたのははっきりとした苦痛だった。家に一人でいることそのものは嫌いではない。けれど、自ら選んだわけではない、というその一点をもって許しがたい思いでいっぱいだった。 あれから2年ばかりが過ぎ、事態は少しずつ収束に向かいつつある。でももし、あの日々が今度はもっと強い形でかえってきたとしたら、それが永遠に続いてしまったとしたら……。私は正気を保っていられるのだろうか。 突如、世界中に発生した正体不明のピンク色の雲。触れると10秒で死に至るため、人々は外に一歩も出ない、家の中での生活を余儀なくされることとなる。一夜の関係を共にした男女、友人の家から帰れなくなった少女、自宅に一人きりの女性……終わりの見えない隔離生活の中で、人々の感情は徐々に変化し、歯車が狂うかのようにバランスを失っていく。 外界での生活に思い焦れピンクの雲を憎々しく思う人もいれば、情報を極限まで遮断し楽観的に生きることを選択する人もおり、さらにこの環境の中で生まれた子どもたちはピンクの雲に愛着すら持ち始めるようになる。緩やかな不自由の中、どう現実と向き合うか、その選択の中にその人の生き方が見えてくる。

また映画による新しいトラウマが増えてしまった

世界中の人がロックダウンを経験したからこそ、あの頃胸の中に渦巻いていたものを思い出さずにはいられない作品だ。現実と奇妙な符合を見せたが故に、ついついピンクの雲とコロナウイルスを重ねてしまうものだが、作品自体はコロナ禍が始まる前に製作されたものだという。であればピンクの雲は、知らぬ間に植えつけられた思想や時間をかけて緩やかに締め上げてくる社会といった、もっともっと見えにくくて身近にあるもののようにも思えてくる。 ふと窓の外を見ると、浮かぶ雲が夕日を浴びて、淡くピンクに色づいていた。思わずぎょっとして急いでカーテンを閉めた。困ったことに、また映画による新しいトラウマが増えてしまったようだ。 ピンク・クラウド』 監督・脚本/イウリ・ジェルバーゼ 出演/ヘナタ・ジ・レリスほか 配給・宣伝/サンリスフィルム ©2020 Prana Filmes 【他の記事を読む】⇒シリーズ「宇垣美里の沼落ちシネマ」の一覧はこちら <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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