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宇垣美里「偏見なんて持ちたくない。けれどけれど」/映画『泣いたり笑ったり』

 元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
宇垣美里さん

撮影/中村和孝

 そんな宇垣さんが映画『泣いたり笑ったり』についての思いを綴ります。 映画『泣いたり笑ったり』●作品あらすじ:バカンスを過ごすため南イタリアの港町ガエータの別荘を訪れた2つの家族を待ち受けていたのは、両家の父親トニとカルロの再婚の知らせでした。 双方の家族は大混乱。元恋人や娘、息子たち、両家の孫まで巻き込んで、バカンスは予測不能な大騒動に。はたして、価値観のちがう両家のいさかいや、トニとカルロの恋の行方は――。 イタリア映画祭2021では視聴者数第1位に輝いた、父親同士の再婚が巻き起こす騒動を描いたコメディドラマを宇垣さんはどのように見たのでしょうか?(以下、宇垣美里さんの寄稿です。)

身近な人のカミングアウトを受け入れられるだろうか。例えばそれが父親だったら?

偏見なんて持ちたくない。その人がその人らしくあることで何か権利を奪われることなんてあってはならないし、そんな世界にしないために私だって闘っていく所存。皆が生きやすい社会は私にだって優しいはずだもの。 けれど、けれどそれが身近な人だった場合、ずっと長い付き合いの人からのカミングアウトを、他者と同じように素直に受け入れることができるだろうか。例えばそれが、父親だったら……?
バカンスに訪れた裕福だが複雑なカステルヴェッキオ家と、代々漁師で保守的かつ誠実なペターニャ家。価値観の異なる2組の家族は突然、トニとカルロ、両家の父親同士の結婚を知らされ大騒ぎとなる。それぞれに父親への想いを抱える両家の子どもたちは、結婚を阻止すべく画策する。 長い時間を共にしてきた父親がゲイであるということを大人になって受け止めることの難しさ、いまだに残る同性愛に対する戸惑いがリアルに描かれている本作。保守的であるが故に尊敬する父の結婚を受け入れられず、不快だと語る息子に対し、カルロが毅然と放った「それはお前の問題だ」という台詞にハッとしたし、製作陣の気概のようなものを感じた。

大人だからこそ、新しいものを受け入れるためにはパワーをより必要とする

同性婚の法律賛成のデモに参加するような先進的な娘も、なかなかその結婚を認められないのは、ホモフォビア的な嫌悪感だけでなく、これまでの親子関係のひずみが鍵となってくる。
大人なのに、いや大人だからこそ、新しいものを受け入れるためにはパワーをより必要とするみたい。一方でペターニャ家の幼い末弟はサラッと2人の関係を受け入れ、いいと思うよと応援している。新しい世代はとっくにアップデートされているのだ。
映画『泣いたり笑ったり』

『泣いたり笑ったり』より

それにしても皆に真摯に向き合い骨抜きにするカルロの魅力ったら。トニがカルロをとろけそうな顔で見つめていて、この人もまたカルロに出会えたことで救われたひとりなのだろうなと感じた。 エンドロールの映像があまりに多幸感に溢れていてにっこりしてしまった。イタリアはガエータの美しい風景にもうっとり。 泣いたり笑ったり』 監督/シモーネ・ゴーダノ 原案・脚本/ジュリア・シュタイガーヴァルト 出演/アレッサンドロ・ガスマン、ジャスミン・トリンカ 配給/ミモザフィルムズ ©2019 Warner Bros. Entertainment Italia S.r.l.-Picomedia S.r.l.-Groenlandia S.r.l. 【他の記事を読む】⇒シリーズ「宇垣美里の沼落ちシネマ」の一覧はこちら <文/宇垣美里> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。
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