「よく覚えていないこととはいえ」、悪いことをしたという認識はあるとショウタさんは言う。
「目の前で配偶者が別の異性と関係をもっている。僕だって想像したら、パニックになりそうですから。いくら記憶が曖昧(あいまい)だと言っても、妻が実際に見たのは確かなんだから、どれだけ謝っても足りない。だから今まで努力してきたんです」
彼はもうすっかり、ユミコさんが当時のことを「許して」いると信じている。自分たち夫婦は固い絆で結ばれているとも言った。
そう簡単に傷は癒えていないはず、と水を向けると彼は首を横に振った。
「ユミコはそんなことで悩んだりしないと思います。あのときのことはあのときのこと、あれから10年以上もたっている。この10年のふたりの積み重ねた時間を考えれば、あの数分間のできごとは水に流していると思う」
前編で聞いたユミコさんの本心を聞かせてやりたいが、彼女からは自分が話したことを伝えないでほしいと言われている。
「ユミコは本当にいい妻で、いい母親だと思います。しっかり者だし、家庭を任せて何の不満もありません」
なんとなくショウタさんは、その後も不倫をしたことがあるのではないかと思えてならなかったが、ストレートに尋ねるわけにもいかない。
だがあれこれ話しているうちに、やはり彼が何度かよその女性と関係をもっていることがわかった。
浮気はやむなし。ダメな自分を妻は受け止めてくれている
「続かないんですよ。だからただの浮気。恋愛でもない。ちょっとだけよそ見することは誰にでもあるんじゃないかな。ユミコには言わないでください。
ただ、ユミコが完璧すぎるから、ときどきフラッと他に目が行くのかもしれない。ユミコのせいというわけではありません。僕がいいかげんな人間なんだと思う。もちろん浮気していることなんて知らないと思うけど、どうしようもない僕をユミコは受け止めてくれている」
予想外の展開である。「継続的でなければ」浮気はやむなしと考えていること、自分自身はダメな人間だが、それも含めて妻は自分をまるごと受け止めてくれていること。ユミコさん自身は、おそらくそんなふうには考えていないはずだ。
「せっかく縁があったのだからユミコとは添い遂げたい。僕は子どもたちに会社を継いでほしいなんてまったく思っていないから、好きなことを見つけて羽ばたいてほしい。そしてそれ以降はユミコとふたりで旅行したり、何か一緒にできることを始めたりしたいと思っているんです」
あと10年で、ユミコさんは離婚したいと考えている。だが夫はそんなことはまったく予想もしていないようだ。
ショウタさんはとらえどころのないタイプ。人当たりはいいが、たとえば「浮気」そのものへの罪悪感はまったくなさそうだし、それを隠そうとするところもない。一般的に浮気はいけないことになっているという事実も、ぬらりとくぐり抜ける非常識感がある。
だが、そういうところがこの人らしさなのかもしれないと思わせてしまう感じなのだ。不思議な人ではある。
10年後のユミコさんとショウタさんがどうなっているのか、あるいはそれが前倒しとなるのかはわからない。ただ、このままだとふたりの間の見えない溝はますます深くなっていくだろうことは想像にかたくない。
<文/亀山早苗>