“妙に”と言ったのは、これまでディーンが演じてきた役柄に共通して感じてきたことだからだ。
岩田剛典と名バディを組んだテレビドラマ『シャーロック アントールドストーリーズ』(フジテレビ系、2019年)では、シャーロック・ホームズと同じイニシャルを持つ誉獅子雄を演じたが、あんな端正でクールビューティな探偵が現実にいるはずがない。
なのになぜか獅子雄のたたずまいは、すごくリアルだった。しかもコナン・ドイルの原作以上に、カリスマ性を備えたホームズの雰囲気を全身にまとっていた(岩ちゃん演じる若宮潤一がディーンにメロメロの恋人のようでさえあったのだから)。
特に侍姿のときには、より強烈な説得力を発揮する。2022年公開の主演映画『Pure Japanese』は、『らんまん』とは違い、舞台が現代に設定されているが、これが恐るべき“サムライ”役の怪演だった。
アクション俳優である立石(ディーン・フジオカ)は、内なる武士道に火がつく。『憂国』の三島由紀夫を想起せる狂気の切腹を演じる場面は、虚実の境界が曖昧になる。
武士の社会ではない現代であるはずなのに、不思議とリアルな“サムライ・スピリット”(まさにタイトル通り)を体現していた。『らんまん』では、武士の時代の終焉の中、ディーンによって坂本龍馬の幕末武士道精神が貫かれ、浮き彫りになる。
そもそもディーン自体、ものすごい武士顔である。大木から天狗のように舞い降り、万太郎に向き合う眼光がまぶしい。万太郎のことを「坊主」と言いながらも、ひとりの人間として誠実に向き合おうとする。「まずは飯かのう」と言って一瞬、視線を漂わせるおちゃめな姿もサムライ・ディーンらしい間合いの取り方でいい。
第3話、思い悩む万太郎のことを見つめる眼差しが温かい。彼を肩に担ぎ上げると、直立不動の仁王像のようで天狗感がグッと増す。清い魂を持つこの男が、この先、幕末の志士(獅子)として、一石を投じて日本の歴史を変えていくことになるのか。ディーンの肩に歴史の重みがズシンときても、この鋼の肉体は、決して崩れないだろう。
父親の顔を知らない万太郎は、坂本龍馬にまさかの父性的な愛情を感じる。同胞たちが迎えに来たさり際、龍馬は、万太郎の目線の位置までしゃがみ込む。幕末の武士なのか、やっぱり実は天狗なのか、はたまた父親なのか。ひとりの少年を前にしたおディーン様の顔に、“豊かな朝ドラの表情”を見た。次回第6回は10日(月)あさ8時より放送される。
<文/加賀谷健>
加賀谷健
コラムニスト / アジア映画配給・宣伝プロデューサー / クラシック音楽監修「イケメン研究」をテーマにコラムを多数執筆。 CMや映画のクラシック音楽監修、 ドラマ脚本のプロットライター他、2025年からアジア映画配給と宣伝プロデュース。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業 X:
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