イケメン俳優の王道を進まなかった松坂桃李は、なぜ活躍し続けられるのか
安藤サクラ主演のドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系、2023年)で、第2話と第4話に出演した松坂桃李は、まさに俳優人生をブラッシュアップしてきた。
主演だろうと助演だろうと、松坂は、一発入魂の精神で役を演じる。どの役柄に対しても生半可な気持ちは絶対にない。だから彼は、スターなのだ。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、松坂桃李がいかに“息の長い俳優”であるのか、その足跡を追う。
2022年10月9日放送の『日曜日の初耳学』(MBS、TBS系)に、松坂桃李が出演したときのこと。MCの林修との対談で、松坂の正直な人柄がにじんでいた。非の打ち所がないはずの俳優人生について語る姿には、嘘ひとつなかった。『侍戦隊シンケンジャー』(テレビ朝日系、2009年)で戦隊ヒーロー俳優としてデビュー後、主演作品が続いていた当時のことを松坂は、こう語る。
「事務所に相談して、主演以外でも脇で作品に参加させてもらえないかと話し始めてから、そのストレスはなくなってきた感じはありますね」
当時の松坂が感じていた「ストレス」とは、主演作が続いていたことに対する「実力と立たされている場所の誤差みたいなもの」と本人が説明している。主演作が続くことは俳優として幸運なことではないかと想像するが、俳優の実感はそんなに単純なものではないのだろう。
「20代後半はいろんな役に挑戦させてください」と頼み込んだという松坂は、脇に回ろうが、嫌でも目立つ。それが、“天性の主演スター”の証だ。
デビューからすぐに主演をはる才能は、限られた逸材にだけ与えられたものだが、ハタチそこそこの松坂には、当時から主演俳優としての演技に説得力があった。
2012年公開の映画『今日、恋をはじめます』を思い出してみる。同作は、少女漫画を原作とする実写化映画の中でも特に名作だと思う。デビューまもないイケメン俳優にとって登竜門といえるラブコメ作品でさえ、観客の心に残る好演をさらっとやってのける。松坂が演じた椿京汰は、高校のクラスの人気者。俺様的で、軽薄な雰囲気がある役柄は、ラブコメの王道キャラクターだ。歩いているだけで多くの女子たちの視線を釘付けにするたたずまいには、松坂が観客から受けるラブコールと比例するかのようなカリスマ性があった。
主演作こそあったものの、まだ“実写化王子”前夜のフェーズにいた山﨑賢人との相性もよかった。山﨑が脇に回り、縁の下の力持ちになるくらい、このときの松坂は、主演俳優としてイケイケに輝いていた。