Entertainment

イケメン俳優の王道を進まなかった松坂桃李は、なぜ活躍し続けられるのか

インターバルをはさみながら頂点を極める

『今日、恋をはじめます』が、2010年代のラブコメ実写映画化ラッシュの初陣を飾るような作品だったことを思うと、10年単位で流行が変わるに映画界の時の流れを感じる。そのままラブコメ作品の覇者になる路線もあったのに、松坂は、あえて若手俳優の王道を進まなかった。  主演のあとに助演をやり、また主演をはって助演でインターバルをはさむ。助演が主演を担う上でのパワーアップになった。松坂が自ら求めたこの出演方式が、他の俳優にはないオリジナルの俳優像を松坂にイメージ付けた。
『新聞記者』※Amazon Prime videoより

『新聞記者』※Amazon Prime videoより

 助演によるインターバルがあったからこそ、近年の主演作品でも抜群の実力を発揮できている。『孤狼の血』(2018年)や『新聞記者』(2019年)では、社会派の顔を垣間見せながら、気骨のある役柄をまっとうした。第46回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞を受賞した『流浪の月』(2022年)では、長尺の全編中、粘り勝ちの演技で、俳優道のひとつの頂点を極めた。

過去と現在をつなぐ“目印”

『流浪の月 シナリオブック』 凪良ゆう/李 相日(創元文芸文庫)

『流浪の月 シナリオブック』 凪良ゆう/李 相日(創元文芸文庫)

 主演と助演の狭間で松坂は、演技のスタイルを変えてきたとも言える。そうして演技に柔軟性を養ってきたのだが、それでいて変わらないものがひとつある。右頬にプチッと符号のように付いたホクロだ。あのホクロだけは、唯一変わらないもの。  松坂がにっこり笑うと、膨らんだ頬にくっきり浮き上がる。ホクロの斑点自体が、演技をしているようにさえ見える。このチャーミングな斑点が、難しい役柄にも説得力を持たせてきたようにも思う。  ある誘拐事件をめぐる男女の物語が描かれる『流浪の月』で松坂は、事件当時の過去と15年後の現在とで大きな開きがある役柄を演じなければならなかった。ふたつの時代を同じ俳優が演じても違和感が全然なかったのは、松坂のホクロによって役柄がうまく判別できたからではないだろうか。唯一変わらないものとしてのあのホクロが、過去と現在をつなぐ“目印”になっていた。
次のページ 
“息の長い俳優”として
1
2
3
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ