
マキヒロチ先生
――オークラ東京でのイベント、ものすごく盛況でしたね。みなさんの熱量が伝わってきました(取材当日、オークラ東京での読者招待イベントを実施)。
マキヒロチ先生(以下、マキ):1度目のホテルイベントは名古屋で開催して、今回は2度目になります。『おひとりさまホテル』1巻の1話に出てくる場所でもあるので、いわゆる聖地でのイベント開催ができて、私も嬉しいです。なかなかお値段として厳しいかもしれませんが、この漫画を機にひとりホテルステイが流行ってくれたら嬉しいですね。
――コロナ禍でホテル業界も苦境を強いられた面があると思います。マキ先生としては、この漫画によって業界を盛り上げていきたい気持ちもあったのでしょうか?
マキ:以前『オズマガジン』の取材で、「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」に宿泊させてもらったことがあるんです。当時は、せっかくオリンピックのために建設された部分もあるのに、肝心のオリンピック自体が開催するか不明で、人も来てくれるかどうかわからない状態。スタッフさんから「何度でも泊まりにきてください、私たちはいつでもウェルカムなので」と言われたときに、ああ、これはなんとかしないと、って思ったんです。
ちょうどそのときに、原案のまろさんのインスタグラムを見つけて、「一緒にやりませんか?」と声をかけさせてもらいました。
――そもそも、マキ先生がひとりホテルステイを始めたきっかけは何だったんでしょうか?
マキ:青春18きっぷが好きで、よく旅をしていたんですよね。でも当時はお金がなかったので、ビジネスホテルや民宿がメインでした。宿を目的に行くというよりは、次の目的地に行くための繋ぎ、みたいな感覚で。今と比べると「ひとりを楽しむ」っていう感じではなかったんですけど、「一人で泊まることに慣れる」っていう意味では、良い入口になったと思います。
それからは、たとえば『いつかティファニーで朝食を』の連載時などは、よく取材で地方に行っていたので宿泊がマスト。一人で泊まるのって楽しいんだな、って思いました。それでも、ホテルよりは街歩きのほうに魅力を感じていたんですけど、コロナ禍で自由に出歩けなくなってしまって……。それからですね、ひとりで過ごすことをメインにホテルを選ぶようになったのは。自分が知らないだけで、素敵なホテルってたくさんあるんだなって知ったんです。
――ひとりで宿泊するのって、最初は抵抗がなかったですか?
マキ:ありましたよ。初めて民宿に泊まったとき、つげ義春さんの漫画に出てきそうな宿と、割烹着を着た女将さんが出てきて!「もう夕飯食べました? それじゃ、部屋までお送りしますわね~」って感じで、2人しか乗れないようなエレベーターで部屋まで案内されて。
――すごく情景が浮かんできます……! ちょっと怖いですね。
マキ:ほんとうに、宿というよりは誰かの家みたいな感じだったんです。引き出しを開けたらメモ帳や体温計があったりして。それで、朝に目が覚めたら目の前に女将の顔があって!「ノックしても起きなかったから~」って言うんですよ、本当かな!?って(笑)。本気で「異世界に連れて行かれるのでは? 一人で泊まるのこわ!」って思っちゃいました。でも、旅の魅力のほうが勝ってましたね。
――民宿やビジネスホテルは、そういった“ガチャ”的な要素があるのかもしれませんね。
マキ:たくさん勉強させてもらいました。場数を踏んでくると、だんだん「ここのグループ系列のホテルは安心できる」とわかってくるんですよ。経験を積んで、少しずつ審美眼を培っていくしかないですね。そういった過程を飛ばしたい方は、ぜひこの『おひとりさまホテル』を読んでください。
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【マキヒロチ】
第46回小学館新人コミック大賞入選。ビッグコミックスピリッツにてデビュー。リアルな人間模様を描いたストーリー漫画から、時計専門漫画、ギャグエッセイなど幅広いジャンルで活動中。著作に『いつかティファニーで朝食を』『創太郎の出張ぼっちめし』(いずれも新潮社刊)『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』『SKETCHY』などがある。
<取材・文/北村有>
北村有
葬儀業界を経て2018年からフリーランス。映画やドラマなどエンタメジャンルを中心に、コラムや取材記事を執筆。菅田将暉が好き。