新名が仕事以上に熱を込め丹念に仕上げるのが料理だ。毎話に必ずと言っていいほど新名による料理場面が描かれる。もはやレギュラー化する恒例ぶりに筆者は、“新名クッキング”と名付けたくなってしまった。 　初料理場面が第2話。メニューは、妻の健康を気遣ったヘルシー酢豚だった。豚肉を湯通ししてオイルカット。パプリカの照り具合が優しい味わいを感じさせる。 　手料理を食べてくれたら、レスも解消かと思うが、仕事で帰りが遅い楓は食べてくれない。新名は作ったものをすぐにタッパーにつめてしまう。 　調理から即保存へ。冷蔵庫で急速に冷える惣菜は、新名夫婦の関係性そのもの。そして冷蔵庫を開ける瞬間、冷蔵庫内から新名の悲しげな表情が捉えられ、岩田特有の切ない表情を四角いフレーム内で輝かせる。 　この表情、冷蔵庫をのぞく可愛らしい妖精に見えることから、名付けて“冷蔵庫の妖精さん”。しかも岩田の瞳が潤む“魂の潤み典”。筆者にとって新名誠とは、つまり岩田剛典に対する命名の連打とラッシュでもあった。 　それくらい新名の料理場面は、本作で重要な機能を果たしていた。調理の過程が描かれるのか、省かれるのか。それだけでこの不倫ドラマの推移を逐一確かめられる試験紙みたいな役割でもあったと思う。 　夜な夜な冷蔵庫を確認し、タッパーの中身が減っているか確認する。でも減らない。楓は食べてくれない。作り置きした惣菜に比例して、愛は冷めるばかり。第3話でついにせき止められていた新名の感情が溢れ出る。 　ソファで寝てしまった楓を横目に、暗がりでペンネを頬張る。悲しみが彼をむしばみ、同じ会社のみちとの不倫に走らせた。第4話の社員旅行で彼らの道ならぬ関係性が決定的となる。 　重要なのは、新名が社員旅行に出かける朝の場面。彼は楓に朝食を作るのだが、「誠のポーチドエッグ、久しぶり」と言って彼女が頬張るそれは、愛の不毛を象徴する一品。 　なぜなら、調理過程が丁寧に描かれる新名クッキング中、初めてその過程が省略された料理だったからだ。 　何と奥深い新名クッキング。細部の数々にキャラクターの声なき感情を込めた。もちろん新名の行為は不倫に他ならず、許されない。 　でも一方で、岩田がこの役を演じることで、不思議と純愛の色味を添えていたようにも思うのだ。