
2011年、『トイ・ストーリー3』でアカデミー作曲賞を受賞したときのランディ・ニューマン
ポップス音楽で人種差別を最も多く取り上げ、深く考えてきたのが、映画『トイ・ストーリー』などの音楽で知られるアメリカのシンガーソングライター、ランディ・ニューマンです。
2008年のアルバム『Harps And Angels』に収録された「Korean Parents」は、発表当時から物議をかもしました。韓国系の児童の親が過度に教育熱心だと揶揄(やゆ)しているとして批判されたのです。
しかし、歌詞をよく読むと、ニューマンが皮肉を向けているのがアジア系ではないことがわかります。学校で成績上位に食い込めない白人の児童に、しつけに厳しい韓国人の親をどうぞ、と売り込む内容です。
この「親」というワードがミソなのですね。デキの悪い白人の子どもを育てた彼らの親世代の力不足を皮肉っているからです。
<偉大なる世代 君たちの親御さんは、決して偉大なる世代ではなかった
もう聞き飽きた言葉だろうけど、でも君たちにはそうなれる可能性がある
さあ、何が出来るかな 君たちと韓国人の親の力で>(筆者訳)
つまり、ランディ・ニューマンは白人の凋落(ちょうらく)、ひいては“アメリカ帝国の没落”を、アジア系という彼らが最も軽んじている存在によって強調しているのです。

ロバート・ダウニー・Jrとエマ・ストーンの振る舞いも、こうしたレンズを通すとまた見え方が違ってくるのではないでしょうか。
確かに非礼であり、抗議の声をあげるべき出来事です。
しかしながら、同時に公の場で綺麗事や格好をつける余裕すらなくなったアメリカの衰退のあらわれだと見れば、象徴的な光景だと教訓にすることもできます。
自らのアドバンテージであるはずのソフトパワーに傷をつけてしまった。第96回アカデミー賞は、ひとつの歴史の転換点として記憶されることになるのでしょう。
<文/石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4